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経営組織論と『経営の技法』#64


CHAPTER 3.1.3:専門能力と年功に基づくキャリア形成
 最後の2つの特徴は、専門能力と年功に基づくキャリア形成です。官僚制では、報酬はその専門能力と年功に基づいて固定給で払われることになります。これは、官僚制の特 徴として挙げた専門化された職務を行うためには専門能力の養成と職務の専従者としての能力の発揮が求められるからです。
 そのために、官僚制では専門能力を十分に習得できる能力と組織内部での専門的訓練が特徴として挙げられます。公務員試験が行われるのは、決して採用する順位を決めるだけではなく、この専門能力を十分に習得できる能力、別の言い方をすれば組織に入って専門的訓練を受けたうえで、職務を遂行できる能力があるかどうかを確かめるために行われているのです。そして、職務に就いている組織メンバーの身分は終身雇用の形で保証される必要があります。少なくとも、組織メンバーの身分は時の権力者などによって簡単には失われないようにしなくては、永続的に安定した組織活動はできません。
 少し本論と離れますが、官僚制の面白い特徴はこのように人材の供給についても触れていることです。組織活動が人によって行われる限り、たとえ個々人の人格を入り込ませない組織形態であっても、組織が永続的に活動するためには辞めていく人を組織は補充しなくてはなりません。スナップショットとして良い組織を考えるだけでなく、永続性のあるものとして組織を考えようとした点、そしてそのために人材の供給についても考えている点に官僚制の大きな組織としての特徴があるといえるかもしれません。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』53~54頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村・久保利・芦原/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 専門性と年功によるキャリアは、かつて、会社の法務部でも見られました。
 すなわち、弁護士の数が少なく、会社の法務部の人材が、その会社の業務に関する法律のプロになるように、会社業務のことだけでなく、それに関係する法律についても専門的に担当し、経験を重ねることで、下手な法律事務所の弁護士よりも、その分野について高度な専門性を獲得します。
 そして、このような専門性を持った人材がいずれ法務部長となり、若手の育成もしていき、「法務部」という組織が永続的に存続します。また、定年で会社を辞めた人が出る分、新人が「法務部」に配属されますので、「法務部」の永続性も確保されるのです。
 けれども、このような法務部のスタイルは、少し減ってきたように思います。
 というのも、法務部の人材を会社のさまざまな部署に異動させるなど、ビジネスマンとして活用する場合が増えたことや、会社の法務部に社内弁護士を雇うことが飛躍的に増加したことから、法務部一筋、というキャリアパスが減ってきたように見えるのです。
 そして、このような変化も、何か明確な意図があって制度設計が変更されたものではなく、良さそうな社内弁護士を雇ってみたり、逆に、現場に法務部員を出してみたりしていく中で、少しずつ変わってきたものが多いようです。
 この背景には、法務部が会社で嫌がられる正論を言うだけの部門ではなく、ビジネスの安全性やスピードを高めるサポートができる部門となり、他部門からの干渉に耐えられる(本文の例にたとえると、政権に干渉されにくい)組織である必要性が低下し、他方、ビジネスの専門性が高まってきた点があげられるように思われます。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家から、投資対象である会社の組織を見た場合、そこに専門家が沢山いることは、とても心強いことです。その専門家を会社につなぎとめる方法として、終身雇用で安心して働いてもらう、という方法が一般的でした。
 ところが、この方法も変わり始めています。
 終身雇用制が崩壊し始めており、また、ベテランの専門家を会社に沢山引き留めておくことよりも、さまざまな人材が常に入れ替わっているような、風通しの良い組織が増えてきました。伝統的で厚みのある専門性よりも、新しい柔軟さが好まれるのでしょうか。
 このような違いは、投資家からだと、なかなか見えない違いかもしれませんが、会社が戦う市場で求められる適性に合った組織かどうかを見極める場合、会社が終身雇用制を採用しているのかどうか、という情報は、この意味で重要な情報かもしれません。

3.おわりに
 終身雇用で、専門性もあって、という憧れの国家公務員は、日本の場合、たしかに優秀な人を集める魅力がありました。そのことで、時には官僚の方が国会をコントロールしているように見えるときもあるほど、政治の影響を受けない、盤石な組織ができているようにも見えます。
 1つのモデルとして学ぶべきところは学びましょう。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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