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経営組織論と『経営の技法』#308

CHAPTER 12.2:組織のライフサイクル ⑥共同体段階の危機
 この時期の危機は、権限委譲の必要性です。組織の規模が大きくなることで、階層が出来上がってきます。つまり、「トップ層—ロワー層」という階層ではなく、「トップ層—ミドル層—ロワー層」という階層になります。このような階層になると、トップが今までのようにすべての人に直接的に指示を出すことや判断をすべて行うことが難しくなります。ですから、だんだんとトップ層は自分の持っていた責任や権限を下位のミドル層に委譲する必要が出てきます。あるいは、各事業部門をコントロールや調整するための組織を整備する必要があります。
 本田宗一郎は優れた技術者でした。組織が小さいときには自らが技術部門の先頭に立って引っ張ってきましたが、大きくなるにつれ、技術者も成長し、本田との間に確執が生まれます。技術者たちにこのことを相談された藤沢はこのとき、本田に「あなたは社長なのか、それとも技術者なのか」と迫ったそうです。その後、本田は技術部門に口を挟むことはなかったそうです。後日、2代目社長となる河島喜好は、「(宗一郎が)あと3年口を挟んでいたら、ホンダは潰れていた」と述べています。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』272頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 社長の手の届く範囲でしか仕事をしないのであれば、多層化は不要です。権限移譲も不要です。
 けれども、社長個人のキャパシティーを超えた規模の大きさに会社組織が成長すると、社長に代わって会社の一部となるチームをリードする管理職者が必要になり、権限移譲も必要になります。
 むしろ、社長のキャパシティーを超えてから慌てて組織化を模索するのではなく、社長の目が届くうちに権限移譲を開始し、安心して任せられることを予め確認しておいてから組織を大きくする方が良いでしょう。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から投資対象である経営者を見た場合、権限委譲し人に任せる度胸や人を育てる力量が必要になってきます。自分の言うとおりに動かすことと、任せて育てることは明らかに異なることですが、その区別がつかない経営者は組織を大きくできません。

3.おわりに
 松下幸之助も、戦前の早い段階から人に任せる経営を実践しており、戦後もアメリカの会社や他社に先駆けて事業部制やカンパニー制を導入しました。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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