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経営組織論と『経営の技法』#246

CHAPTER 10.2:社会化プロセス
 先に述べたように、組織のメンバーが最も学習しなくてはいけない時期は、組織に入ってしばらくの間です。プロスポーツの世界では時に、チームに入っていきなりチームの主軸として活躍ができる選手もいますが、企業組織においてはきわめて特殊な能力や技術にかかわる仕事以外では、このようなことは稀です。
 しかし、だからといって、個人任せで知識や能力が十分に身につくのを待つのは時間がかかるものです。他の組織メンバーと同様に給料を払っているのであれば、いち早く組織に貢献できるレベルの能力や知識をつけてもらうことが組織にとっては重要になります。
 また、能力や知識をつけてもらうとともに、うまく組織になじんでもらうことです。ですから、たとえ能力や知識がついたとしても、すぐに辞めてもらっては困ります。なぜなら、仕事ができてもできなくても新人に組織は給与を払っていますし、そもそも採用する段階においてコストがかかっているからです。
 このようにさまざまに学ぶことがある新人の時期を社会化プロセスと呼びます。一般的には組織社会化は、「組織への参加者が組織の一員になるために組織の規範・価値・行動様式を受け入れ、職務遂行に必要な技能を習得し、組織に適応していくプロセス」と定義されます。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』226頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 新卒の新入社員が組織に適応する、というプロセスには、2つの意味があります。
 1つ目は、社会人になる、というプロセスです。2つ目は、その会社の社員になる、というプロセスです。
 新卒の場合には、両方とも初めてだし、これからだ、とわかっているので、この2つのプロセスの両方について一所懸命取り組みます。
 問題は、中途採用で転職する社会人です。
 自信があるのか、虚勢を張っているのか、人によって状況は違いますが、自分は社会人経験十分(1つ目)、会社が変な独自文化や独自ルールを作り上げて優秀な人を使いこなせないなら、会社の方が問題だ(2つ目)、という理由で、会社に馴染むプロセスを馬鹿にしたり、そこまでいかなくてもあまり熱心に取り組まない人がいたりします。
 けれども、このような大人げない対応が誤りであることは、説明するまでもなく明らかでしょう。向上心も謙虚さもなく、責任転嫁や自己防衛で凝り固まった、防御態勢にあるハリネズミのような人が活躍できる会社などありませんから、このような意識で動いている限り、活躍の場所に巡り合えることは期待できません。向上心も謙虚さもなく、責任転嫁や自己防衛で凝り固まった、防御態勢にあるハリネズミのような人が、活躍できる会社などありませんから、このような意識で動いている限り、活躍の場所に巡り合えることは期待できません。
 と言うは易し、ですが、中途採用で転職する人たちにこのような傾向が生まれてしまう事情も理解できます。
 それは、特に経験者と期待され、即戦力と期待されて転職された場合には、期待にそう人材であることを早い段階でしっかりとアピールできなければ、早々に解雇(あるいは、試用期間後の本採用拒否)され、そこまでいかなくても、社内で活躍の機会を与えてもらえず、肩身の狭い思いを抱き続けなければならなくなるからです。謙虚に自分の弱みを認め、会社の社風や従業員の思いなどを学ばせてもらいます、という姿勢は、即戦力でないことの自白であり、かえって危険です。謙虚に自分の弱みを認め、会社の社風や従業員の思いなどを学ばせてもらいます、という姿勢は、即戦力でないことの自白であり、かえって危険なのです。
 中途採用で転職する社会人は、本文で検討される事柄について、知ったかぶりもできないが、知らないわけにもいかない、という難しい状況にあり、新入社員よりもさらに一段難しい対応が求められます。さらに、会社の側としても、中途採用者の、このように難しい立場や精神状態を理解し、本来の経験や能力が歪まずに活用されるように配慮すべきです。折角の即戦力が、つまらない理由でつまずかないようにしなければなりません。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から、投資対象となる経営者を見た場合、経営者がそのツールである会社を上手に使いこなして「適切に」「稼ぐ」ことが必要です。
 このように見れば、経営者が会社をコントロールし、支配することが重要で、ここで検討した「社会化プロセス」のような発想、すなわち経営者の方が会社に適合し、入り込んでいくという発想は、逆のことのようにも見えます。
 たしかに、経営者は従業員に対して、労働法上の人事権を有し、指揮命令することができますから、経営者による会社のコントロールや支配は、単なる理念ではなく、制度的にも現実化され、担保されているのです。
 けれども、会社をコントロールすることは、一方的に会社を屈服させ、言うことに従わせることだけではありません。命令により、義務感だけでする仕事と、意欲的に取り組む仕事では、仕事の内容に大きな違いが出ますので、会社の活動や、それによる製品・サービスの競争力を高めるためには、従業員の主体性に対する経営者の配慮や理解も必要となるのです。
 さらに、チャレンジするという経営判断する(リスクを取る決断をする)ために必要なリスク管理を、経営者が1人で行う限り、組織は個人の判断能力を超えて大きくなることができませんから、リスク管理を従業員らが行うようにならなければなりません。つまり、会社組織自体が、リスクセンサー機能とリスクコントロール機能を有する必要があります。
 逆に言うと、会社組織がリスク管理を行って、経営判断できるだけのお膳立てをし、経営者がそれを踏まえて経営判断を行う、という役割分担ができてくるはずです。
 これは、経営者が、会社組織という担ぎ手に担がれた神輿になる、と例えられます。そうすると、経営者が安心して担がれ、判断能力や指導力を発揮できるようにするために、担ぎ手に受け入れられる必要が出てきます。担ぎ手の側にも、経営者を担ぐだけの価値がある、という思いを抱くようになることが必要であり、そのために経営者自身が、会社に適合し、入り込んでいくという発想が必要となるのです。

3.おわりに
 さらに、経営者の後継者を育成するうえでも、コントロールや支配だけではダメです。経営者は、責任をもって判断すべき立場にありますが、指示される仕事をするだけでは、そのために必要な能力が育たないからです。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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