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経営組織論と『経営の技法』#4

CHAPTER 1.1.2:さまざまな理論の集合としての組織論
 最初に組織論とは「組織についてのいろいろな論」だと述べましたが、それは1つの正しい特徴です。言い換えれば、組織論のもう1つの特徴は、組織論がさまざまな理論から成り立っていることです。ゆえに、わかりやすい体系というもの、あるいは基礎から応用へといったような知識の系統というものが示しにくい学問になっています。より詳しくいえば、「いろいろな論」には2つの側面があります。
 1つは、組織論がさまざまな基礎理論を基盤とした応用学問であることです。まず、組織論は主に心理学や社会学、経済学などのさまざまな基礎学問の知見をもとにしながら発展してきた学際的な応用学問です。また、応用学問であるために、より使えることが意識されてきたともいえます。
 もう1つは、それらの論が現実では交錯しながら登場するということです。現実の世界ではこれらさまざまな理論が同時に登場します。たとえば、飴と鞭といわれるように、人を動かすためには飴の論理も必要ですが、鞭の論理も理解しなくてはいけません。
 組織論をより使える理論として理解するためには、さまざまな基礎学問分野に紐づいたさまざまな理論があり、そのさまざまなり理論を同時並行的に考慮に入れていくことが求められるのです。これが、組織論がさまざまな理論の集合であることの背景です。
 しかし、これは組織にまつわる現象が感情や損得勘定、あるいは価値観などのさまざまなものから成り立っている現実を考えれば、そこで使える理論もさまざまな論から成り立っていることも自然なのです。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』4~5頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村・久保利・芦原/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 ガバナンスの中心的な問題は、株主による社長の牽制です。
 これは、「所有と経営の分離」を構造的・安定的に確立することで、資本の集中と経営の専門化を図るもので、会社制度こそ人類の偉大な発明と言われるのは、これによって、大規模な事業を永続的に行うことができるようになり、世界経済が大きく発展したからです。
 けれども、「所有と経営の分離」による効率的な面だけだと、会社が暴走してしまいますので、本来の所有者である株主による適度な牽制が必要です。
 当初は、株主総会を通して牽制すれば十分だったようですが、経済が複雑になり、会社が扱う事業の内容や規模も多様になっていく中で、それだけでは不十分となってきたため、それぞれの国の状況に応じて会社法の内容も多様に変化してきました。
 このような、ガバナンスの基礎となる制度的な構造の変化は、純粋に法的な単純な命題から導かれるものではなく、まさに、社会状況、経済状況、経営状況などの影響によってもたらされています。ガバナンス論、特に会社法の構造や機能も、「いろいろな論」を背景にしているのです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 『経営組織論』で論じられる組織論の大部分は、社長を頂点とする下の正三角形の内部統制にかかわってきますが、これこそまさに、『経営組織論』で論じられているところが当てはまります。すなわち、人間の集まりである組織がどのような構造で、どのように動かすのか、という問題だからです。
 そのうえで、ここで特に留意するのは、リスクに気付き、リスクをコントロールし、適切にチャレンジの判断をし、それを実行し、健全に収益を上げる、というプロセスです。
 すなわち、嫌なこと(リスク)を直視し、それを乗り越え、やり遂げる、という、人間としてあまり楽しくはない行動を、組織として永続的にやり続けるような、制度設計と運用が必要になるのです。
 このような、人間の生理的にネガティブなことを、組織的に実行するからこそ、「いろいろな論」がより重要となります。

3.おわりに
 「いろいろな論」がベースになっているということは、抽象的で崇高な理念から出発した、非現実的な理屈ではなく、現場の創意工夫の方が、より重要である(あるいは、そのような現実的な経験や観察を盛り込む包容力がある)、ということができます。
 すなわち、どうすれば会社組織が「リスク」に気づく感度を上げるだろうか、どうすれば会社組織が「リスク」をコントロールできる能力を上げるだろうか、という工夫に、新しい知見やひらめきを活用できるし、活用すべきである、と言えるでしょう。
 どう思いますか?

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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