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経営組織論と『経営の技法』#130

CHAPTER 6.2:組織文化をマネジメントする
 組織文化をマネジメントするうえで、リーダーは重要な役割を果たします。しかし、第5章で説明してきたリーダーには、あまりそのような側面は見当たらなかったと思います。それはリーダーに与えられている役割が大きく異なるからです。
 第5章で触れてきたリーダーは、組織によって示された課題をメンバーを使ってより効率的に、より高いレベルで達成することがリーダーとしての課題になります。マネジャータイプのリーダーといってもよいかもしれません。このようなリーダーは、基本的には自分の権限に基づく、いわゆる外的な報酬によってメンバーを動かしていくだけでなく、部下の満足度などの内的報酬を含む社会的な交換関係を手段としてリーダーシップを振るうことから、交換型リーダーと呼ばれます。
 一方、トップマネジメントからの課題をこなしていくだけでなく、これまでの考え方とは異なる組織を作り出すようなリーダー、あるいは組織のために自己利益を超越して行動することをメンバーに啓発し、絶大な影響を与えるリーダーを変革型リーダーあるいはカリスマ型リーダーと呼びます。これまでの価値観や信念を変え、新しい組織文化を形成したり、組織を一から構築したりするようなリーダーのことです。
 前者は主に、ミドルレベルのリーダーを念頭に考えられ、後者は社長やCEOといったトップリーダーを念頭に考えられています。どちらも、ここまで説明してきたような価値観や信念を用いて、組織を変革あるいは大きくしていくリーダーです。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』133~134頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 リスク管理の観点から見た場合、組織文化を変革すべき場合としてよくあるのが、1つ目は、リスクを無視・軽視していた組織文化を改め、リスク対応を強化しよう、とする場合です。バブル崩壊後しばらく経って、コンプライアンス重視が社会的に広く叫ばれましたが、そこでは、イケイケどんどんで、詰めの甘かった組織文化を反省し、リスク管理をしっかりする会社に変化しようとする会社が多くありました。
 2つ目は、リスクを取ろうとしない官僚的な社風により、事業の成長が止まってしまった会社が、保守的な組織文化を改め、積極的にリスクを取ってチャレンジできる会社にしよう、という動きです。
 この2つの動きは、チャレンジする・しない、という観点から見ると、動きは逆ですが、リスク管理ができていない・できている、という観点から見ると、同じ動きです。1つ目は、リスク管理が効いていなくて、博打のようにリスクを取っていた状況を改めようとするものであり、2つ目は、リスク管理が効いていなくて、リスクを取れなかった状況を改めようとするものです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 これは、本文で指摘されるように、会社組織内の問題にとどまらず、経営者自身がリードすべき場面が多い問題です。組織文化は、会社組織全体に関わるからです。
 そして、この変革は、これから後、さらに別の章でも検討するとおり、非常に難しい仕事であり、投資家である株主から経営者を見た場合、経営者の人選が極めて重要な問題になります。

3.おわりに
 組織文化が変わった事例として、東芝が例に挙げられます(続「なぜ、企業は不祥事を繰り返すのか」樋口晴彦著/日本工業新聞社)。そこでは、業績が悪化したために、社長がリードして社内カンパニー制・成果主義を導入したことがきっかけで、それまで「公家」と言われていた社風が、攻撃的なものになった、と分析されています。
 このように、組織文化は実際に変化すること、そのためにはトップのリーダーシップが重要であること、が理解できます。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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