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経営組織論と『経営の技法』#98

CHAPTER 4.4.1:チーム組織とプロジェクト組織
 チーム組織は、組織全体が複数のチームによって構成されています。チームの人数はそれほど多くなく、1つ1つのチームは独立の目的を持っています。チーム組織では、それぞれのチームメンバーやチームリーダーに十分な権限を与えることが重要になります。
 なぜなら、チーム組織においては、いわゆるここまで説明してきたような上層から下層へと流れる権限のラインがないからです。それぞれのチームは、予算と目的を与えられた後には、自分たちにとって最適であると考えるやり方、方法によって業務を設計して、目的の達成をめざしていきます。そのうえで自分たちの目的の達成、つまりチームの業績について責任を持つことになります。
 チーム組織のチームは、原初的な組織の単純構造に近いものと考えることができます。別の見方をすれば、単純構造を持つ組織を並列的にたくさん抱える組織がチーム組織ということですから、とてもフラットな組織であると考えることもできます。チーム組織では、フラットであるために権限の階層がほとんどなく、権限もチームならびにチームリーダーに与えられるため、いわゆるビラミッド型の組織にあるような権限の流れがなくなるのです(図 4-7)。
(図4-7)チーム組織

図4-7

 たとえば、古代の集落では、集落での食料として、選ばれた人たちがチームを作り、狩りに出かけていきました。また長老たちは村の行く末を考えたり、重大な意思決定をしたりするために村落におけるある種の経営チームを作っていました。それぞれのチームには役割と権限が与えられ、それぞれが役割を果たすことで、村落は組織として存続していきます。
 チーム組織の構造は、ここまで説明してきたような職能別組織や事業部制組織とは異なる考え方を持っていますが、これらの組織形態と相性が悪いわけではありません。むしろ、これら基本的な組織形態を補足するものとして考えることもできます。
 たとえば、事業部制をとりながらも、各事業部の下にいくつかのチームを置いて運営することも可能ですし、研究開発の部署においてはそれぞれの担当製品や担当市場ごとにチームを作って新しい製品の開発に取り組ませることも可能です。このようにして、チーム構造はチームの持つ柔軟性を活かしながら、ピラミッド型の組織の効率性も活かすことができるといえます。
 プロジェクト組織は、チーム組織のチームが時限的なプロジェクトによって構成されるところに特徴があります。それぞれのプロジェクトは特定の目的と期限が決められ、それぞれのプロジェクトに組織のメンバーが所属することになります。
 たとえば、大きな建築事務所では、建築依頼が来れば、プロジェクトが立ち上がり、組織のメンバーによって、その建築プロジェクトが構成されます。建築プロジェクトは、もちろん建築物が完成してしまえば目的は達成されることになりますから、建築物の完成とともにプロジェクトは終了し、解散することになります。それぞれのメンバーは、次の建築プロジェクトヘと移動していきます。
 組織の中には、このようなプロジェクトが起こっては終わり、起こっては終わりという形で存在し、経営者はプロジェクトの進捗を管理したり、プロジェクトを起こすかどうかを決定したりすることが仕事となります。
 チーム組織やプロジェクト組織は、ここまで見てきたようなピラミッド型の組織形態と異なり、何より柔軟であることが大きなメリットであるといえます。それぞれのチームが目的と権限を持っていることで、より市場や環境の変化に対して素早く対応することができます。
 また、プロジェクト組織であれば、時限的な問題に対しても対応することが可能です。たとえば、企業が不祥事を起こした際に、事業部制であれ、職能別組織であれ、その不祥事に対応するためにはさまざまな部署の連携が必要になり、部署間の調整が必要になってしまう場合があります。また、複数の製品にまたがる問題であったり、生産と販売の双方に影曹が及んだりするなど、責任を持たせる部署を決めこるとも難しいことがあります。このようなときに、不祥事に対応するプロジェクトを時限的に立ち上げることで、すべての情報はそのプロジェクトに集まり、その対応が組織において優先事項だと認識されれば、迅速にそして柔軟に不祥事への対応が可能になります。
 一方で、チームやプロジェクトを作り、組織メンバーをそのチームやプロジェクトに所属させれば十分というわけではありません。チーム組織やプロジェクト組織の難しさもあります。組織のメンバーはチームで働くためのいくつかのスキルが必要になります。
 その最も大きなものは、専門性の異なる人と働くためのスキルです。チーム1つ1つはそれほど大きなものになりませんので、そのチームにその専門家が1人しかいないということが頻繁に起こります。それゆえに、チームにはさまざまな専門の人が集まってチームの目標を達成していくことになります。
異なる考え方や価値観を持った人々と同じ目的の達成に向かって協働していくことは、同じ考え方や価値観を持った人々と協働することに比べてずいぶん難しいものです。チーム組織やプロジェクト組織の場合には、このような多様な人々と協働するための能力が要求されると同時に、組織においてこのような能力を身につけるための準備が必要となるのです。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』93~96頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 リスク管理に関連する業務の位置付け方について、考えてみましょう。
 まず、内部監査業務ですが、これは株主のために経営状況を事後チェックするのが主要業務です。事前の意思決定に関わりませんので(関わると、監査でなくなりますので)、現場と一緒に行動する必要性よりも、会社全体の動きを理解し、一体性と客観性を確保する要素の方が重要です。現場での意思決定や仕事の進め方については、内部監査業務に携わるメンバーが手分けしてフォローすれば良いでしょう。
 次に、コンプライアンス業務ですが、たとえば証券トレード業務のように、コンプライアンスのルールへの適合性を素早く判断しなければいけないような場合であれば、外資系の証券会社のトレードルームにコンプライアンス担当者が置かれているように、そのような業務を行っているチーム・プロジェクトに担当者を配属すべきです。
 けれども、守るべきコンプライアンス上のルールの策定・修正や、その履行状況の確認などの業務が、内部監査と同様、事後的な要素が多ければ、内部監査部門と同様の体制にすることもありです。コンプライアンス業務は、全従業員(あるいは、特定の業務に関わる全従業員)に、社会のルールの最低限となるルールの遵守を徹底させることで、会社全体の底上げをします。会社全体が取るリスクを、最初から画一的に切り捨てるので、そのようなリスクについて頭を悩まさなくても済むようになります。
 会社組織も、そのようなリスクの種類に応じて、コンプライアンスのあり方を考えていきます。
 次に、法務業務ですが、これはチーム・プロジェクトがよほど大きいものでなければ、社内の法律事務所のような部門(担当者)を置き、各チーム・プロジェクトの業務を必要に応じてサポートする方式、すなわち、法務部を会社の共有インフラと位置付ける方法が良いように思います。各チーム・プロジェクトの独立性が高く、それぞれのメンバーが仲良しの社外弁護士にバラバラに相談するような事態になると、会社の中で矛盾や対立を引き起こしかねません。各チーム・プロジェクトは、会社の共有資産である法務部門を上手に活用して、会社全体の一体性やコスパ(外の弁護士はたいてい高い)も考慮したビジネスが期待されるようにするのです(人事考課や利益配分など)。
 最後に、リスク管理業務ですが、ビジネスに関わるリスクに気付き(リスクセンサー機能)、これを適切にコントロールし(避けるか、チャレンジするために減らすか。リスクコントロール機能)、実際にチャレンジするかどうかの決断をし、実行する、という一連のプロセスに関する責任は、当然、各チーム・プロジェクトになります。問題は、会社全体の健康状態を人間ドックや健康診断でチェックするように、会社全体のリスク管理状況や、現在とっているリスクの量・質などを、全社的に把握して経営陣に示す機能(リスク統括機能)です。小さければ、経営者が自ら健康状態を把握でき、それで十分でしょう。
 けれども、たとえば経営者に馴染みのない分野の業務を担うチーム・プロジェクトがあったり、組織再編や業務拡大などの大きなチャレンジに向けて体質を強化する予定があったりする場合には、会社の健康状態を確認するためにリスク統括業務を会社に設置するべきでしょう。リスク統括責任者や、チーフリスクオフィサー(CRO)です。さらに、企業保険などを上手に活用してもらうことも、リスク管理のための重要なツールとなります。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から経営者を見た場合、ここでの経営者は、組織管理で仕事を進めるというよりも、案件管理で仕事を進める、という形になります。
 もちろん、個別の案件の進め方などについて、チームやプロジェクトに丸投げすることも、あるいはそこまでいかなくても、株主が経営者に仕事を託すように、「所有と経営の分離」を前提に仕事を与える方法も、あるでしょう。この場合には、案件の管理よりも、組織の管理によって仕事を進めることが可能です。
 けれども、機動性の高いチーム・プロジェクト制にしているメリットによりますが、たとえばチーム・プロジェクトのメンバーを絞り、迅速な決断を可能にしようとしているのであれば、そこでは、経営者が各チーム・プロジェクトの案件を自ら十分理解し、自ら決断できることが重要になるでしょう。
 後者の場合、チームやプロジェクトは、経営者の能力を最大限に引き出すための装置、と評価することもできそうです。つまり、経営者の能力や魅力で成り立つビジネスの場合には、投資家(株主)としても、経営者がそれを引き出せる会社組織を選択し、運営しているのかをチェックすることが重要になります。

3.おわりに
 たとえば、リモートで働ける状況になり、タイムシェア・ワークシェアなどを可能とする(需要者と供給者を結び付けるインフラが整うなど)状況がより一般的になると、会社組織はどのような形態になっていくのでしょうか。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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