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経営組織論と『経営の技法』#69

CHAPTER 3.3.1 Column:MUJIGRAM
 この章で紹介したようなマニュアルや規則による管理はもう古いのではないか、と考える人もいると思います。確かに、経営環境の変化のスピードが増す中で、それに対応してマニュアルや規則をいちいち作成している場合ではありません。それよりも従業員の力量を信じて、柔軟に現場レベルで対応してもらう考え方のほうが組織としてはふさわしいと考えられます。しかし、反対にマニュアルを徹底することで業績をあげた組織があります。それが良品計画です。
 無印良品の店舗へ行くと、全国どこでもほとんど変わらない店舗の作りをしていることに気づかれるのではないでしょうか。良品計画では、売り場のディスプレイだけでなく、接客、発注など店舗運営にかかわるすべてのやり方をマニュアル化し、それをMUJIGRAM(ムジグラム)と呼んでいます。
 以前の無印良品では、他の同種の業態の企業と同様に、店舗運営は店に任されていました。 また若い人は、そのやり方を店長などの背中を見て覚えていきました。必然として店舗ごとに商品のディスプレイは異なっていったのです。そのためたとえば、新しい店をオープンする際に、準備が整ったと思ったら、別の店の店長がやってきて駄目出しをして、直した後にまた別の店の店長がやってきて「これでは駄目だ」と変更させられるといったことが起きていたようです。そこで店舗運営のマニュアルを用意した経緯があります。
 実際に策定されたMUJIGRAMによって、店舗の運営は経験の浅いアルバイトでもできるようになりました。また、どの店も同じマニュアルですから、どの店に異動してもすぐに戦力として活躍することも可能になったのです。これまでは新しい店舗に異動すれば、その店舗のやり方をまたーから覚える必要がありましたが、MUJIGRAMがあるため、どの店でも同じやり方をしていることで、どの店でもすぐに活躍することができるのです。
 また、MUJIGRAMによる創意工夫も起こり始めました。改善したいこと、あるいは追加したいことがあれば、日々マニュアルは更新されるようになっています。そのことがまた新しい標準となり、共有されることで組織が成長していくのです。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』61~62頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村・久保利・芦原/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 前回は、科学的管理法について、会社組織をまるで機械のように扱っている、と話をしました。
 今回の無印良品のMUJIGRAMは、これと対比すると、会社組織をまるでパソコンやスマホのソフトやアプリのように扱っている、と言えそうです。Windowsも、インターネット上の脆弱性に対する対策を講じた場合や、その他細かい操作性について、ときどきアップデートしていますし、小幅な修正で対応できないときには、大幅な改定を行い、合わせてイメージチェンジも行います。
 なぜ、ソフトやアプリを例に出したかというと、パソコンやスマホは、全て例外なく、ソフトやアプリの指示どおりに作動するからです。ソフトやアプリは、パソコンやスマホの脳にあたるCPUなどの演算素子に対する命令が体系になったものです。
 つまり、パソコンやスマホを会社組織にたとえると、CPUをはじめとする各演算素子が、全てこのソフトやアプリの命令どおりに作動しますから、まさにここのMUJIGRAMと同じです。ソフトやアプリを、別のパソコンやスマホにダウンろーろすれば、その別のパソコンやスマホも、まったく同じように動くのですから、店舗が変わっても、店長が変わっても、MUJIGRAMどおりに動く無印良品各店舗が、このパソコンやスマホ、となるのです。
 そして、このMUJIGRAMがすごいところは、日々改善されていく仕組みにあります。どこかで現場の従業員たちの意見も汲まれるのでしょう。やらされるだけではない手応えも与えることで、むしろ自分たちが作り上げ、磨き上げている作品となり、現場の士気や主体性も高まるのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 前回、科学的管理法に関して指摘したように、科学的管理法自体はニュートラルで、結局、経営者の手腕が問われる、という趣旨の説明をしました。投資家の投資対象である経営者が、科学的管理法をどのように使いこなせるのか、が経営者を見極める際のポイントになる、ということでした。
 ここでのMUJIGRAMは、科学的管理法を唱えた本人が予想した範囲を超えているでしょうが、けれども科学的管理法が発達した方法とも見ることも可能です。
 株主として、経営者を選ぶ際のポイントとして、経営組織論が重要であることが良くわかります。

3.おわりに
 マニュアルを常にアップデートさせることで、フランチャイズまで可能となります。フランチャイズは、自分の会社ではない会社や個人が、同じブランドで店舗を経営しますので、同じブランド価値を共有できなければ当然、トラブルになります。コンビニなどが有名です。
 このように、マニュアルは、自分の会社組織内部をコントロールするだけでなく、他の会社までコントロールしうるツールです。
 リスク管理の観点から見た場合、マニュアルの長所の1つとして、業務品質のボトムアップになる、という点と、組織の内外にそれを徹底する基盤となる、という点が、ポイントになります。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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