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経営組織論と『経営の技法』#122

CHAPTER 6.1.1:組織文化の特性 ②細部に対する注意
 2つ目は細部に対する注意です。これは、仕事において細かい部分に対する正確さや注意が求められる程度を指します。たとえば、1億円の金額の交渉において、1円単位まで交渉をする組織は、そうでない組織に比べて細部に対して注意深い組織であるといえるでしょう。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』127~128頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 リスク管理(リスクを取ってチャレンジするためのリスク管理)の観点から見た場合、リスクを取ることが大事、ということは前回(#121)指摘したことです。
 こういう話を聞くと、ここでの②細部に対する注意は、リスクを取ることに反対の方向であって、この傾向が強すぎると好ましくない、という印象を持つかもしれません。
 けれども、これは誤解です。
 というのも、これも前回(#121)指摘したとおり、ビジネスとして永続的に稼がなければならないので、リスクを博打のように思い切りだけで取るのではなく、ビジネスとしてチャレンジするために、十分な検討を行い、リスクコントロールを尽くしてからリスクを取ります。
 たしかに、リスクを徹底的に回避しようという場合も、②細部に対する注意が払われます。
 けれども、わざわざリスクを取ってチャレンジするためだからこそ、②細部に対する注意が払われるべきです。すなわち、リスクを取らないための口実を探すために、②細部に対する注意を払うのではなく、チャレンジした時に成功する可能性を高めるために、②細部に対する注意を払うのです。
 したがって、前回(#121)の①革新やリスク性向という指標と、②細部に対する注意という指標が、共に高い数値を示したとしても、決して矛盾しているのではありません。むしろ、積極的にリスクを取るために意欲的に活動していることを思わせると言えるでしょう。
 統計的な数値を読むときには、その背景を正しく理解するように心がけましょう。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から経営者を見た場合、ここで指摘したように、リスクを積極的に取るために細心の注意を払う、という経営姿勢は、「繊細にして大胆」そのものと言えるでしょう。
 投資家から見た場合の理想の経営者は、この2つをしっかりと会社組織にやらせ、両立させることなのです。

3.おわりに
 しかも、組織文化として②細部に対する注意が求められますので、単に詳細なマニュアルを作ればよい、というものではありません。それが、全従業員の意識として浸透し、自然に行動となって現れなければならないのです。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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