経営組織論と『経営の技法』#247

CHAPTER 10.2.1:新人が学ぶこと ①仕事
 では、新人が組織に入って学ばなければならないことにはどのようなことがあるでしょうか。定義からわかるように、新人が学ばなければならないことは、仕事にまつわることと組織にまつわることです。それぞれについて主なものを挙げてみましょう。
 まず、仕事にまつわるものとして挙げられるのは、仕事をするための知識やスキルです。たとえば仕事で使われる専門用語がわからなければ仕事が進みませんし、先輩や上司の言っていることもわからないでしょう。
 このような専門用語には、その業界や職種で用いられる用語もあれば、その組織特有の用語もあります。たとえば、警察では現場に残された犯人の足跡のことを「下足痕(げそこん)」「げそ」と呼びますが、これも業界用語の1つですし、これがわからなければ捜査に支障をきたしてしまいます。
 もちろん、仕事における知識やスキルも重要です。サービス業であれば商品の知識や接客の仕方、生産現場であれば機械の動かし方や生産の手順など、さまざまなレベルの知識と仕事をするスキルが必要になります。これらを経験学習やモデリング学習、あるいはマニュアルなどの伝聞や指導によって学習する必要があります。
 あるいは、競合他社や取引相手、顧客、支店、子会社などの仕事の外的環境やネットワークについても学ぶ必要があります。自分たちの担当している顧客や取引相手と自社のこれまでの関係や支店間、子会社間の関係なども仕事を進めるうえでは重要な知識になります。
 たとえば、創業当時から付き合いのある取引会社は、時には助けたり助けてもらったりする関係であることが少なくありません。それを知らずに、そのときの交渉を行えば、場合によっては長年の関係を壊し、大きな損害を自社に与えてしまうことにつながるかもしれません。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』226~227頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 ここでは、仕事に関する能力が論じられています。
 すなわち、①組織内の問題(コミュニケーション:専門用語など)、②自分自身(知識、スキル)、③組織外の問題(外的環境、ネットワーク)、という3つの領域について、必要な能力が何かが示されています。
 組織と個人の関係を適切な関係に保てることが、会社組織にとっても個人にとっても必要なことです。組織の一部でしかなく、個人としての自分がなければ、組織の多様性は失われてしまいます。短期的には、組織の一体性が高まって良いかもしれませんが、中長期的には、状況変化に対応できない、組織の構造疲労が起きやすい、などあまり良いことがありません。
 従業員個人のためにも、組織のためにも、従業員それぞれに応じた能力の育成が求められます。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から、投資対象となる経営者を見た場合、経営者を育てることも重要な課題です。
 その場合、社会人1年生とは当然に、難易度や専門性が違いますが、経営者の資質が一朝一夕に備わるわけではありませんので、外部から招聘する場合でなければ、経営者は次の経営者候補を育てることが重要な仕事になります。
 候補者に競わせる方法もあれば、1人の候補者に様々なことを経験させ、いわゆる「帝王学」を学ばせる方法まで、さまざまです。
 投資家にとって、経営者の育成・選抜・継承がどのように行われているのか、という点も、事業継続の可能性や安定性を知るうえで重要な情報になるはずです。

3.おわりに
 知識や能力など、学校の試験で評価されるような部分だけが教育ではなく、置かれた環境で自分を生かすことや、周囲の環境に良い影響を及ぼすことも、仕事です。それを学んでもらおう、という発想にあることを、従業員の側にも理解してもらう必要があるのです。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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