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経営組織論と『経営の技法』#5

CHAPTER 1.1.3:組織論を学び、使う意義
 では、なぜ私たちは組織論を学ぶのでしょうか。
 まず、1つには私たちの周りに、組織が多く存在するからです。学校、病院、会社、自治体、PTA、消防署や警察署など、私たちの周りには多くの組織が存在します。
 では、なぜ私たちの日常社会には、多くの組織が存在するのか、それは個人ではできない活動が、組織では可能になるからです。例えば、自治体を運営するという活動は、どれほど優秀な人であっても1人では時間的にも能力的にも不可能です。しかし、組織を作ることによって、自治体を運営するということが可能になります。
 このような例は、大なり小なり私たちの日常生活には多く存在し、むしろ組織による成果ではないものの、個人によってのみなされた成果を探すことのほうが難しいかもしれません。したがって、現代に生きる多くの人は、何かしら組織に所属して活動をしている、あるいは活動することになると考えられます。現代社会をより良く生きていくためにも、組織について知るということは意義のあることだと考えられるのです。
 また、組織が日常社会に多く存在することと同時に、私たちの日常社会の活動は、ますます複雑化しています。たとえば、40年ほど前にソニーから売り出された、携帯音楽プレイヤーの先駆けのウォークマンという商品と今販売されている携帯音楽プレーヤー(たとえば、アップルのiPod)を比較してみれば、機能だけでなくその技術的な構造も、とても複雑に高度になっていることがわかるはずです。
 そしてこのことは、この音楽プレイヤーを製造するためのプロセスが複雑になり、さまざまな技術が使われることで、1つの製品にかかわる人間が多くなっていることも意味します。つまり、組織はどんどん大規模化していっているということなのです。5人をまとめていくことより、100人の人をまとめていくことのほうが難しいことはわかると思いますが、社会において組織がどんどん大規模化し、複雑になるにつれ、それをまとめていくことは難しくなり、これまでの経験だけでは対応できなくなっていくことになるのです。そこに組織論を学ぶ2つ目の意義があると考えられるのです。
 組織論をうまく使うことによって、私たちは組織運営において、組織のもたらすメリットをより多く得ることが期待できます。経営という文脈で考えれば、それは企業の生み出す付加価値をより大きくすることができるのです。
 組織論は、現代社会で生活をするうえで、知らないわけにはいかない、あるいは使えるようになっておくという必要性の意義だけでなく、知ることで大きなメリットを享受できるという利便性もあるのです。特に組織論を使っていく、使える組織論という観点からいえば、必要性の意義だけでなく、道具としての組織をより有効に使うための、積極的な意義として組織論を学ぶということができます。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』4~5頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村・久保利・芦原/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 ここでは、会社以外の組織も多数紹介されています。
 これらの組織を、ガバナンスの問題、すなわち外部からのコントロールという観点から見た場合、ガバナンスの態様は実に多様です。たとえば、国会や地方議会のガバナンスは、選挙民による投票です。自治体は、首長に対する選挙民の投票の他は、住民による監査権が若干設けられていますが、株主ほどガバナンス上の権限を有しているわけではありません。
 そして、このような外部からのコントロールや牽制が、会社組織にも影響を与えています。
 会社のように、株主への利益配当や決算報告などがガバナンス上義務付けられていて、市場での競争にさらされている組織の場合には、組織に無駄が生じにくく、身軽でスピーディーです(もちろん、会社の中にも、腰が重くてトロイ会社はありますが)。これに対して、外部からのコントロールが弱く、市場での競争もないような、典型的な「お役所」のような組織の場合には、一般に、腰が重くてトロくなります(もちろん、公的な機関の中にも、身軽でスピーディーな機関はありますが)。
 さまざまな組織を分析研究する際には、それぞれの外部からのガバナンスや、さらにその背景にある社会との関わりについても、理解する必要があるのです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 会社の場合に特に留意するのは、リスクに気付き、リスクをコントロールし、適切にチャレンジの判断をし、それを実行し、健全に収益を上げる、というプロセスです。
 ところが、いわゆる「お役所」の場合には、ミスをしないことが強く要請され、リスクを取ることは推奨されません。もちろん、行政サービスも、新しいチャレンジをしなければならない場面がありますが、ミスをしたら住民に非難される、新しい仕事をわざわざ増やして、危険を背負いこむべきではない、という「お役所根性」が染みついていることが多いようです。
 このように、組織の体質や風土の違いについて、「リスク」を切り口にすると、明確に見えてくる面があるのです。

3.おわりに
 会社組織を上手に使いこなすことが期待されるのが、経営者です。
 お役所組織を上手に使いこなすことが期待されるのが、自治体の首長であり、国の長です(日本の場合は内閣総理大臣や各大臣)。要は、政治家こそ、「お役所」を使いこなしてほしいのですが、現実はどうでしょうか。政治家こそ、『経営組織論』ならぬ、『行政組織論』を学んで、実践してもらいたいものです。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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