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経営組織論と『経営の技法』#283

CHAPTER 11.2.2:弱い紐帯と強い紐帯 Column ①トヨタ
 ビジネスの中であっても、利害関係によってのみつながりが生まれるわけではありません。トヨタ自動車は戦後、一度経営危機に陥ったことがありますが、このときの取引企業の1つであった川崎製鉄は、支払いの遅延を認めなかったといわれています。経営危機から立ち直り、世界企業となったトヨタでしたが、これ以後数十年にわたって川崎製鉄とは取引をしませんでした。これは利害関係だけでなく、信頼がつながりに影響を与えた例といえるかもしれません。
 このように実際のビジネスでは、利害関係に基づくだけでなく、信頼や仲間意識といった社会的関係に基づくつながりも存在します。前者を市場取引としての紐帯と呼ぶのに対し、後者を埋め込まれた紐帯と呼びます。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』257頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 会社内で、周囲の信頼を得られず孤立してしまう従業員がいれば、簡単に解雇できないことから、その従業員を何とか生き返らせるように異動させたり、新しい仕事を与えたり、いろいろと工夫します。それでも会社内で周囲の信頼を得られなければ、会社はその従業員を解雇することになります。会社で働くということは、組織の一員として、すなわちチームプレーとして仕事をすることを約束しているのであって、自分が好き勝手に言われたことだけやればよいのではないからです。
 けれども、解雇に関するトラブルが後を絶ちません。
 それは、一方で会社が従業員に上記のような機会を十分与えようとしない場合などに発生し、他方で従業員が自分は言われた仕事さえすればよく他人との関係など問題でないと勘違いしている場合などに発生します。
 労務管理は会社経営上とても重要な業務ですが、その根本にある「人事権」の意味を理解することが重要です。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 会社外であれば、信頼を失うことは取引機会を失うことであり、自業自得です。会社内での従業員のように、誰かが守ってくれるということは原則としてありません。会社経営者は、そのような冷徹なコミュニケーションの中で会社の信頼を高め、取引機会を高めなければなりませんから、取引上の信頼の重要性を理解している経営者であるほど、取引先の信頼を失わないように必死になります。会社の信頼が何よりも優先される事情は、このような点にあります。

3.おわりに
 もっとも、前回#282で指摘したように、取引拒絶も行き過ぎれば経済法に違反する場合があります。単に取引をしないだけでなく、集団でボイコットしたり、合わせて嫌がらせをしたりすれば問題になってきますので、あくまでも取引として常識的な方法でなければなりません。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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