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経営組織論と『経営の技法』#60

CHAPTER 3:組織を動かすメカニズム
 時計を設計し、さまざまな部品をその設計図どおりにはめ込んでも時計は動きません。時計を動かすためには動力が必要になります。組織も同様に、組織目標を達成するのに必要な活動を分析し、それをつなぎ合わせただけでは組織は動きません。そのためには動かす力が必要になります。基本的な組織設計とそれを動かす力があって組織は目標の達成に向かって動いていきます。
 この章では、まず、合理的な仕組みとして組織を考えた2つの古典的な組織の考え方について紹介します。そのうえで組織を動かすメカニズムについて考えていきます。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』49頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村・久保利・芦原/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 会社組織の存在する意義は、「儲ける」ことです。すなわち、株主から資金を託され、儲けることを約束した経営者が、儲けるためのツールとして会社組織を経営します。言い方は悪いですが、お金儲けのマシンです。
 けれども、なりふり構わずお金儲けだけに邁進すればよいわけではありません。
 それは、投資資金を回収すべき株主の視点から見るだけでも明らかです。すなわち、株主は(株を売却して途中で投資資金を回収することもできますが)会社からの配当によって投下資金を回収しますが、上の図のようなコロンブスの事業(インド航路の発見)とは異なり、一発勝負ではありません。「所有と経営の分離」によって、株式会社は、個人のキャパを超えた大きさと永続性を獲得しました。すなわち、会社が所有者から独立した存在として永続的に存在し、永続的に収益を上げて株主に配当し続けることが可能になったのです。
 実際、たとえば株主に対する配当が、投資金額に対し年利5%であるなら、利息を無視した単純計算で、元本を回収するのに20年かかります。その20年間、ずっと収益を上げてもらえなければ投資を回収できないのですから、経営者はあまり無茶できません。また、社会に会社が嫌われてしまうと、売り上げが低下するだけでなく、最終的には倒産に追い込まれることになります。そうすると、「儲ける」どころか、投下資本の回収すら不可能となります。
 ここから、経営者は会社経営に際し、会社が社会と適合することが必要となります。繰り返し、企業の社会的責任が、さまざまに形を変えて論じられてきました。
 つまり、経営者のミッションは、「儲ける」ことであり、その際、会社が社会に適合するように「適切に」経営することです。「適切に」「儲ける」ことがミッションなのです。「適切に」の具体的な例として一番わかりやすいのは、法規範などです(コンプライアンスという言葉に、かつて、法令順守という訳語が誤って与えられていた理由がここにあります。『経営の技法』を参照してください)が、それに限られません。社会が企業に求めるものは、最低限の「法令」の順守だけでなく、もっと実に広いものです。
 会社、という金儲けマシンであっても、社会に受け容れられながら活動をしなければならない、という複雑な制約があるのです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 このような目的と制約の中で、しっかりと収益を上げ続ける組織、そのように会社組織は組織設計され、動かさなければなりません。
 このうち、収益を上げる点が特に重要です。
 というのも、収益を上げるためにはリスクを取ってチャレンジしなければなりません(リスクを取らずに利益を得ることができないことは、古今東西の人間社会に共通する真理です)。けれども、永続的に存在し、永続的に収益を上げるためには、博打をするわけにもいきません。
 そこで、リスクを適切にコントロールし、取るべきリスクと取るべきでないリスクを見極め、取るべきリスクには果敢にチャレンジする、というプロセスが必要です。リスクを取る決断と責任は経営者の仕事ですから、会社組織の仕事は、リスクに気付き(リスクセンサー機能)、リスクをコントロールすること(リスクコントロール機能)です。
 このように、リスクセンサー機能とリスクコントロール機能が会社組織に埋め込まれなければなりません。
 本章で、鈴木教授は、会社組織の「基本的な組織設計」と「それを動かす力」、すなわち「組織を動かすメカニズム」を紹介してくれますから、その際、リスクセンサー機能やリスクオントロール機能に意識しながら、一緒に勉強していきましょう。

3.おわりに
 会社の中にいると、社内に多様な人材や機能があるため、会社組織自体が1つの社会と感じられます。「会社の常識は社会の非常識」と揶揄されるような事態が生じかねないのですが、そのようなことを防ぐことも大切です。企業は社会に適合しなければならないからです。
 「適切に」「儲ける」組織は何か、が常に問題になります。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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