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経営組織論と『経営の技法』#251

CHAPTER 10.2.2:組織における適応 ①リアリティショック
 組織における社会化プロセスでは、さまざまなことを学ぶことになりますが、学ぶだけではなく、それを通して組織に適応していくことが重要になります。しかし、新たなことを学ぶことが、かえって組織への適応を妨げてしまうことがあります。
 たとえば、デザインの仕事をしたいと思って入った会社で、デザインの仕事ができるのは10年くらい経ってからで、しばらくは営業の仕事をしなくてはいけないという人事上の慣習があることを知ったらどう思うでしょうか。あるいは、想像以上に職場の和を重んじ、会議では年長者の意見が尊盾され、新人はほとんど自分の意見が言えないような考えが支配的な組織であることを知ったら、どう思うでしょうか。
 ほとんどの新人は組織に入る前に、その組織に対する期待を持ちます。その組織に入るということは、多かれ少なかれ自分が入りたい会社ややりたい仕事であるわけですから、その期待はポジティブなものであることがほとんどです。しかし組織は、外から見る場合と中に入ってから見る場合では異なることが少なくありません。人間関係でも、軽い付き合いのときにはわからなかったことが、深く付き合うにつれ、わかってくることが少なくありません。
 そのため、入る前の期待と入った後の現実の間にはギャップができることになります。これをリアリティショックと呼びます。組織に入る前にはポジティブな期待を持つことが多いため、多くのリアリティショックは組織や仕事に対する幻滅感につながります。そして、このリアリティショックは新しく入った組織メンバーにさまざまな影響を与えます。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』229~230頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 組織を維持するため、すなわちサステナビリティーを確保するためには、メンバーの入れ替わりが必要です。人の命は有限ですが、会社組織の場合には数百年も事業継続しているものもあり、そこでは会社の構成員の入れ替わりが数百年の間繰り返されているのです。
 せっかく採用して入社してもらった従業員に、簡単に会社を辞められてしまっては困りますから、会社の人事部門は従業員の勤続年数を統計的にモニターしたり、退職する際にその理由をヒアリングする「出口調査」を行ったり、入社した従業員の定着率の悪い部門の管理職者に指導を行ったり、と必死です。
 会社組織を人体に例えると、その機能を維持するために一日に最低限摂取しなければならないカロリー量がありますが、従業員の採用や適応は、会社組織を維持するための重大な問題なのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から投資対象である経営者を見た場合、経営者には、目の前の勝負事(市場での競争)にばかり夢中になるのではなく、市場で競争できるための体力作りにもしっかりと取り組んでもらう必要があります。
 しかも、都合の良いことを言って人を集めるだけ集め、失望させて簡単に辞められるような、無責任な採用活動は、決して組織のためになりません。
 かくして、人事は組織論の重要な要素であり、経営の重大な問題なのです。

3.おわりに
 リアリティショックが発生するとどうなるのか、その仕組みを理解しておくことで、無責任な採用活動を防止するヒントになります。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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