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経営組織論と『経営の技法』#229

CHAPTER 9.4:新しいキャリア ②3つの能力
 組織や産業、あるいは専門性や国など、これまで境界とされてきたものをあたかも何もないかのように歩むキャリアを、文字どおり境界なきキャリアということで、バウンダリレス・キャリアと呼びます。このようなバウンダリレス・キャリアを志向するためには、3つの知ることに関する能力が重要になります。それらは、Knowing-Why、Knowing-How、Knowing-Whomに基づく能力です。
 Knowing-Whyは自身のアイデンティティ、何を成功と考えるかといった心理的成功、価値観にかかわり、自分がなぜそのようなキャリアを歩もうと考えるかについての理由や、その価値を理解することを指します。そもそもなぜ、さまざまな境界を越えてキャリアを歩もうとするのかということを理解していなければ、その場その場でやりたい仕事をした結果、結果的にさまざまな境界を越えて仕事をしてきた人と変わりがなくなってしまいます。
 次に、Knowing-Howは自分の専門能力や知識、技術にかかわる仕事能力です。組織をはじめさまざまな境界を越えてキャリアを歩もうと考えている人にとって、自分がどのような専門能力や知識、技術を持っているかを知らなければ、自分を仕事の中で活かすことができませんし、仕事を得ることもままならないかもしれません。
 Knowing-Whomは、人的ネットワークの理解、つまり自分自身がどのようなつながりを持っているかを知ることです。さまざまな境界を越えてキャリアを歩むためには、特定の境界の枠内のネットワークにとどまらず、自分特有のネットワークを持つことが必要になります。それはさまざまなネットワークから得られる利便が境界を越えてキャリアを歩むためには、有力な資源になるからです。もし、自分のネットワークが組織や専門世界だけの限られた範囲内に収まるのであれば、その境界を越えてキャリアを歩むことは、なかなか難しくなります。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』215~216頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 ここで示された3つの能力は、会社組織の外でキャリアを積む人たちの能力とされています。
 他方、#203では、自分自身のキャリアを考えるための3つの問いとして、エドガー・シャインが示した考えが示されています。それは、①自分は何が得意か(できること)、②自分はいったい何をやりたいのか(やりたいこと)、③どのようなことをやっている自分なら、意味を感じ、社会に役立っていると実感できるか(やるべきこと)、の3つです。
 ここでは、会社組織の外でキャリアを積むために必要な「能力」として、3つの能力が示されていますが、このうち、Knowing-Whyが、②③に、Knowing-Howが、①に、それぞれ対応するように思われます。
 これに、Knowing-Whomが加わります。このKnowing-Whomも、①に含まれると言えるでしょうが、特に独立させていることがポイントです。つまり、会社組織の中であれば必然的に人間との関わりができてしまいますが、会社組織の外でキャリアを積む場合には、人間関係や、これに基づく人脈は、所与のものではなく自ら作り上げていかなければなりません。
 これが、会社組織内でのキャリアを前提とした上記3つの問いとの、一番大きな違いであるように思われます。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 このような、会社組織の外での人脈などは、特に経営者にこそ重要なものです。これは、経営者が会社組織にその力を発揮してもらうのが仕事だからです。すなわち、会社組織が力を発揮するためには、会社組織自体の力を伸ばすだけでなく、会社組織を巡る環境を整えることも重要です。そのためには、会社組織に外から関わる人たちのサポートが重要になるからです。

3.おわりに
 逆に言うと、会社組織の中でキャリアを積み、将来経営者になる場合には、このような社外の人脈などを意識して作っていくことが重要となることがわかります。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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