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経営組織論と『経営の技法』#100

CHAPTER 5:個人に能力を発揮してもらう モティベーションとリーダーシップ
 たとえ目標や役割が明確に示され、効率的に仕事を進める準備ができたとしても、そもそも人に動いてもらわなければ目的を達成することはできません。「馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない」ということわざがありますが、組織を動かすうえで、それなら仕方がないというわけにはいきません。
 そのために考えなければならない要素は、人を動かすことと、人に動いてもらうということです。第4章で述べてきた権威や組織を動かすメカニズムの話は、指示をして人を動かすという観点からの話です。この章では、人に動いてもらうという観点から考えてみることにします。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』99頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 リスク管理というと、危機対策のようなものや、仕事のプロセスをマニュアルにするような仕事とイメージされるかもしれません。いずれにしろ、専門家や然るべき部署が担当すべき業務で自分は関係ない、と思われそうです。
 けれども、リスク管理を、リスクを取ってチャレンジするためのリスク管理と位置付けると、そうではないことがわかります。
 まず、会社はリスクを取ってチャレンジしなければ、その本来のミッション「適切に」「儲ける」ことができません。リスクを取らなければ儲けられないということは、古今東西共通の真理だからです。さらに、投資家の意向に沿うためには、一発儲けて終わりではなく、投資利回りを考えれば、長年儲け続けなければならないので、リスクを取る判断も、博打ではなく、ビジネスとして適切である必要があります。
 そうすると、ビジネスに悪影響が出るリスクに早く気づき(リスクセンサー機能)、それを適切にコントロールし(取らないリスクは回避し、取りうるリスクは適切にコントロールする、リスクコントロール機能)、経営にチャレンジするかどうかを決断させることが、会社組織の機能として必要になります。
 では、どのようなリスクを管理するかというと、ビジネスに影響するリスク全てです。何も、経済市況や消費者の嗜好の動向や、海外の公務員汚職防止規制の動向などの難しい問題ばかりではありません。むしろ、そんな数年に一度問題になるかどうか、というリスクよりも(もちろん、侮ってはいけませんが)、日常の業務に関する、たとえば納入される素材の品質がいつもよりも少し悪い気がする、というようなリスクが重要です。
 このようなリスクについては、たとえばマニュアルなどに記載すれば、その範囲で現場の担当者も意識的にチェックし、必要な報告を行うでしょう。
 けれども、素材業者の様子が違う、マニュアルの想定では異常はないが、マニュアルに記載されていない点で違和感がある、などの事情は、現場の従業員の積極的な意欲が無ければ、なかなか情報が上がってきません。そもそも、言われたことをチェックするだけの仕事をしている限り、そもそもリスクを感じることすらないからです。
 このことから見ると、本章のテーマであるモティベーションは、会社組織全体の感度にも関わり、対応できるリスクの種類や幅に大きな影響を与えるのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から経営者を見た場合、経営者は会社組織の能力を高め、活用し、その能力を収益のために活用することが求められます。
 本文で教授が指摘するとおり、器だけ作っても従業員のモティベーションが上がらなければ収益が上がるはずはありませんから、組織の設計だけでなく、従業員を盛り上げていく求心力が、経営者に必要です。

3.おわりに
 いよいよ、人間が対象となってきました。
 結局、どのように緻密に組織図を描いても、その図の中で実際に活動する従業員が意欲を持たなければ、組織図はただの容れ物で終わってしまいます。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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