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経営組織論と『経営の技法』#7

CHAPTER 1.2.1:組織の定義と組織の持つ要素①
 まず、組織論を始めるにあたって、組織を定義する必要があります。学校、病院、会社をはじめとして、私たちの周りにはたくさんの組織があります。私たちが日常的に組織と呼んでいるものの共通点を探ることはとても難しいことですが、ここでは最もシンプルな定義として、バナードの次の定義を取り上げます。その定義は、組織とは、
「2人以上の人々による、意識的に調整された諸活動、諸力の体系(システム)」
というものです。
 この定義は、社会に多く見ることができるさまざまな組織をすべて含むには、きわめてシンプルなものと思われるでしょう。しかしこの定義には、いくつか組織の特徴を示す要素がしっかりと含まれています。
 まず、複数の人が参加しているということです。これはきわめて当たり前のことでしょう。しかし、もう少し定義を眺めてみてください。この定義に従う限り、組織であるためのポイントは2人以上の人々ではなく、2人以上の人々による力なのです。つまり、複数の人々ではなく複数の人々が発揮する活動や力が組織の要素なのです。これが1つ目の特徴です。
 なぜ、人そのものではなく人が発揮する活動や力に着目するのでしょうか。その理由は、人がそこにいても活動や力を発揮してくれなければならないからです。つまり、人が集まればそれが組織というわけではなく、そこから活動や力を引き出さなければ、それは組織とはいえないということです。これから紹介する組織論には、いかにして人から活動や力を引き出すかという部分に焦点を絞った理論も多く登場します。組織を人の集団だと考えるのではなく、複数の人々による活動や力の体系だと考えることが、この定義に含まれる組織の特徴の1つです。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』5~7頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村・久保利・芦原/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 前回も説明しましたが、株主と経営者、すなわち委託者と受託者の関係で見ると、組織は投資の対象であり(株主目線)、組織は儲けるためのツールです(経営者目線)。
 けれども、単なる人の集まりではなく、そこからもたらされる活動や力に着目すれば、この要素は両者に共通することがわかります。すなわち、何かしらの活動や力が無ければ利益は生まれませんから、投資の対象として何かしらの活動や力は重要な要素となります。さらに、経営者のツールとしてみた場合にも、何かしらの活動や力が不可欠です。
 このように、何かしらの活動や力、という要素は、ガバナンス上の対象として見た組織(つまり、経営者が経営する下の正三角形)にとって必要であり、立場が違っても共通する要素となります。

 他方、株主と経営者の関係は組織と言えるでしょうか。
 いいえ、こちらは、組織とは言えません。
 それは、所有と経営が分離されているからです。すなわち、株式会社制度は所有と経営を構造的に分離することで、大規模で永続的なビジネスを可能にしますが、これは、株主の経営の干渉を無くす(減らす)ことを目的にしています。つまり、株主と経営者が一緒に何かを作りだす、という関係ではなく、株主は「金は出すが口を出さない」、経営者に経営を(基本的に)全て任せる、という関係ですから、株主と経営者が一緒になって何かしらの活動や力を出すものではありません。
 つまり、株主と経営者の関係では、ここで指摘されている1つ目の特徴が備わっていないのです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 内部統制上の視点からは、前回、5つの役割を示しました。
 すなわち、経営者にとっての組織として、①自分の意思決定に協力すべきサポーター、②自分の意思決定を忠実に遂行すべき下僕です。また、従業員にとっての組織は、③労働を提供して生活の糧を得る場、④仕事を通して社会への貢献や自分自身の成長などの自己実現を図る場、⑤仲間とつながるコミュニティーです。
 そして、単なる人の集まりでは、このいずれも満たされないこと、その代わり、何かしらの活動や力が必要なこと、も容易に理解できます。
 なぜなら、何かしらの活動や力が無ければ、①経営者をサポートできないし、②経営者の意思決定を遂行できません。また、③「働かざるは食うべからず」ですから、生活の糧を得ることができませんし、④他社との関係性なしに自己実現を図ることも無理でしょう。⑤じっと何もせずにコミュニティーが出来上がるわけもありません。
 このように、何かしらの活動や力、という要素は、内部統制上の役割からも必要です。

3.おわりに
 人の集まり、という外形から出発し、しかしその背景にある「何かしらの活動や力」に注目することは、組織の外形ではなく、その内実に目を向け、分析を深めていくうえで、必須の思考活動です。最近流行りの「関係性」という言葉も、このような思考活動の中で生かされてきます。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。




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