経営組織論と『経営の技法』#126

CHAPTER 6.1.1:組織文化の特性 まとめ
 企業組織における組織文化を考えるうえでは、これら7つの特性が組織文化の主要な特性であり、これらのことについて組織の持つ価値観、組織メンバーの共通理解を考えることが、組織文化を考えることにつながるわけです。
 ですから、あの会社の社風は「温かい」となったとき、その背後にある価値観はいったいどのようなものかを考えることが組織文化の理解につながるのです。たとえば、従業員重視の特性が強いために温かいと感じるのか、あるいは結果志向ではなくプロセス志向であるところが温かいと感じるのか、それぞれの特性の価値観を考えることが組織文化を理解する足がかりになるのです。ただし、主要な組織文化の特性ですから、これ以外の特性も組織文化として捉えることもあります。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』128頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 「組織文化」を分析し、経営に活用しましょう、というコンサルタントやサービスが多く見かけられます。そこでは、本文で勉強した7つの指標以外にも、4つだったり8つだったり、さまざまな切り口から、組織文化を分析します。
 中には、官僚型、ベンチャー型、など、ステレオタイプとしては分かりやすいが、あまりにも表面的過ぎて、これで何を変えられるのか、見ているこちらの方が心配になるようなものもあります。
 しかも、「組織文化」は経営組織のあり方に関して言うと、分析すべき対象の一部分でしかありません。
 したがって、「組織文化」を分析のツールとして使いこなし、それによって経営上の効果が実際に得られる、ということは、現実的にはかなり難しそうです。つまり、科学的(?)な分析を踏まえ、好ましい「組織文化」を描き、そのために最適な施策を次々に繰り出す、というレベルで「組織文化」を使いこなすのはかなり難しいように思われます。
 けれども、特に欧米の会社は、「組織文化」を経営のツールと意識して、積極的に活用しようとしています。そのコツは、大きく2つのポイントがあると思います。
 1つ目は、試行錯誤です。
 どうせ、科学的に最適な方法が一発で導き出せる問題ではありませんから、仮説を立てて「組織文化」の理想や、そこに向けた施策を打ち、その成果を検証してさらに次の仮説を立てる、ということ(PDCAサイクルみたいなもの)を繰り返し、こつこつと理想の「組織文化」に向けた変化を作り続けます。
 2つ目は、具体的な印象付けです。
 これは、例えば職場で毎年2回、バザーを開いてその売り上げを、ボランティア活動に寄付するなど、従業員が現実的に実感できる手応えを与え続けることです。最初は馬鹿にしていても、しつこく定期的にイベントを開催していれば、たまにはバザーで掘り出し物を買うかもしれません。また、寄付金を贈呈する団体の活動がニュースなどで紹介されると、そこに自分も(会社を通して間接的に)関わっているんだなあ、と思い出すでしょう。このように、テレビやネットの向こう側の世界の話ではなく、自分の身近で起こっていて、自分自身もかかわっている世界の話、という手応えを与えることが、会社の「組織文化」を共有させ、好ましい方向に導く大きな影響力を持ちます。
 「組織文化」は、経営分析のツールとしては心許ないけれども、実際の経営ではとても大切なツールなのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から経営者を見た場合、自分の独自性を出そうと、必死に「組織文化」を変えようとする経営者と、逆に「組織文化」は所与のもので、既に存在するインフラみたいなものと考えているのか、自分から積極的に変えようとしない経営者の両極端があります。
 この点、どちらも極端ですので、最適解はその中間にあるのが普通でしょうが、問題はそれがどこなのか、ということではなく(会社によるので、定義のしようがない)、どのようにそれを探すのか、という方法論でしょう。
 それは、結局手さぐりになるのですが、1つの「視点」として役に立つ場合があるのが、「古着」という発想です。
 これは、父親の会社を継いだ2代目社長が、最初はうまく会社経営できないけれど(したがって、訴訟やトラブルも起きるけれど)、そのトラブルを1つひとつ丁寧に処理していきながら、いつの間にかしっくりと会社経営できるようになる、ということと似ています。
 つまり、先代の経営者の使いやすい会社に仕上がっている会社組織は、「組織文化」も含め、先代の経営者の体に合っている「古着」です。新会社を立ち上げるのではなく、その会社を継承するのですから、新しい経営者はこの「古着」を着こなすことを考えます。思い切って寸法を直すところもあるでしょうし、何度か来ているうちに着こなされてくる面もあるでしょう。組み合わせるシャツを、先代では思いつかなかった柄のシャツに変えると、意外と嵌るかもしれません。
 このように、「古着」の全てを否定するのではなく、むしろ生かすべきところは生かし、変えるところは変える、その際の基準は、自分の経営スタイルに合っているかどうかである、しかも、寸法を変えればそれで済む話ではなく、いろいろと着こなしてみる必要もあり、手間をかけなければならない、このような発想で「組織文化」を自分のものにしていくのです。
 いかがでしょうか。

3.おわりに
 学校でのサークルにしろ、アルバイト先にしろ、ゼミにしろ、会社にしろ、その中の配属された職場にしろ、そこにある「場」と自分の関係は、その後の活動にとってとても重要なことは、容易に理解できます。できるだけ多くの従業員に、この意味での居心地の良さを提供することが、経営者の大事な仕事なのです。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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