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経営組織論と『経営の技法』#248

CHAPTER 10.2.1:新人が学ぶこと ②組織
 一方、組織についても学ぶことが少なくありません。組織について学ぶことの第1は、職場の上司や同僚の名前や地位、あるいは人柄や性格です。あるいは職場の中の人間関係もそうかもしれません。職場の上司や先輩の名前を覚えなければ、組織で仕事生活を送れませんし、仕事をするうえでは上司や同僚の人柄や性格も学ぶべき必要のあるものです。
 あるいは、組織において物事がどのように決まるのか、発言力があるのは誰か、といったことを学ぶのも仕事をするうえでは重要です。組織や職場の中では、公式的な地位は低くても発言力があったり、影響力がある人がいます。誰が力を持っているのか、あるいは誰と誰が近しい関係にあり、誰と誰が敵対関係にあるのかなど、あまり知りたいことではなくても仕事をしていくうえで、これらのことは必然的に学んでいくことになります。
 また、組織や職場において評価される、あるいは罰せられる行動などの評価基準や評価方法についても学ぶ必要があります。たとえば、組織によっては会議の場では上司や年齢が高い人がまず発言し、若い人は発言すべきではないという暗黙のルールがあるでしょうし、反対に若い人から積極的に発言しなければいけないという考えを持っている組織もあるでしょう。このような組織や仕事における賠黙のルールは自然に学べるものではなく、失敗をしたり、教えてもらったりすることで学ぶものが多いのが特徴です。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』227~228頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 能力を発揮するには、自分の置かれた環境を理解しなければなりません。いわゆる「空気」を読めるかどうか、「KY(空気読めない)」になっていないか、という問題につながります。
 そこで読むべき「空気」の具体例が示されていますが、新人のサバイバルとして必要な視点は、経営側から組織を考えるうえでも非常に参考になります。
 1段落目では、チームリーダーの人柄や性格がポイントとされています。
 これを経営から見るとどうなるでしょうか。
 答えは簡単です(実践は難しいです)。それは、優秀な管理職者が揃えば、組織運営は上手くいく、という点です。逆に言うと、管理職者が無能であれば、チームの実力を発揮するどころか、お互いに不満をぶつけあい、揚げ足を取りあい、お互いのエネルギーを束ねるどころか、相互に消耗しあう関係になってしまい、チームの生産性は見るも悲惨な状況になります。
 しかも、人柄や性格がポイントとされています。理屈ではなく、チームとしてやるべきことを全人格的に信じ、信頼できるからこそ、メンバーがついてくるのです。つまり、そのようなリーダーが必要なのです。
 2段落目は、影響力のある人がポイントとされています。
 これは、1段落目と関連させて考えると、自分のボスの背景にあるパワーは何だろうか、あるいは自分のボスすら太刀打ちできないパワーは何だろうか、ということになります。つまり、会社の正規の業務指示だけでなく、その背後にある「政治的」な駆け引きも理解することを、新人に期待しているのです。
 経営の側から見ると、経営の裏幕まで見られているようで複雑な気分になりますが、逆に言うと、ビジネスの本音の部分まで理解してもらうことが重要である、と評価できます。さらに言うと、従業員たちに経営の本音を探らせる苦労をさせるよりも、経営の本音を明確に伝えれば経営への求心力も獲得できるということになります。間に入っている、派閥の黒幕や会社OB等に、無用な権威を与えてしまうことによって、組織を複雑にする危険は、このように、新人の段階から「誰が実力者か」という意識をもって組織に関わっていることを考えると、決して笑い事ではなく、非常に現実的な危険なのです。
 3段落目は、チーム内での立ち居振る舞いです。
 ここには、チームリーダーがコントロールできる部分(上記1段落目)と、チームリーダーではコントロールできず、会社全体の組織や風土、政治的な状況に関わる問題(上記2段落目)が含まれます。つまり、組織に加入した従業員は、これまで検討したような「裏」をかなり早い段階から意識しており、それを実際の言動に反映させようとしていることがわかります。そうすると、表裏のある経営をすればするほど、従業員も表裏のある言動をするようになる、ということになります。
 以上から、読み取れる教訓やヒントはいくつもあるでしょうが、ここで1つだけ指摘すると、会社経営では、本音と建前を使い分けようと考えないことです。本音と建前に違いがあれば、組織は、新入社員の段階から両者の違いを見極める訓練をします(上記1段落目~3段落目)から、本音と建前の違いなど、若いやつに分かるはずがない、という楽観は通用しません。さらに、限られた情報の中で、両者のギャップに敏感になりますから、情報不足による恐怖心や妄想によって、存在しない悪のラスボスまで生成されかねません。こうなると、経営が考える本音と建前のちょっとしたズレが、現場では大きな絶壁として誇張され、拡大される危険すらあるのです。
 新入社員が学ぶべきことは、純粋な動機に基づくサバイバル術でしょう。テロリストを教育する目的ではありません。
 けれども、そこに見える微妙なことが、将来大きなうねりをもたらしかねません。社会人デビューしたのだから、社会人としての立ち居振る舞いを学んでくれたまえ、と鷹揚に眺めているだけでなく、そのことが会社の経営組織とどのようなかかわりがあるのか、冷静に分析することが必要です

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 経営者、特に社外から落下傘で降下したような、プロパーではない経営者の場合、なかなか従業員の「本音」に辿り着けない、というもどかしさがあります。
 それは、ある程度仕方のないことかもしれません。軍隊のように強制する権限や権威がありません。会社内だけでなく社会的にも注目の的のカリスマ経営者や、会社を大きく育てた伝説の経営者でなければ、従業員全員が従順に従うこともないでしょう。
 けれども、だからこそ会社の中に潜む「本音」に辿り着き、これを適切にコントロールできなければ、経営者は会社を使いこなすことができません。従業員たちは、上記のように「裏」を観察し、それも視野に入れた活動をするからです。

3.おわりに
 新人に学ぶべきことの説明であり、一見すると微笑ましいのですが、その背景を考えてみると、実は非常に怖いことが説明されています。従業員たちは、経営者をどのように観察し、対応しているのかを常に意識しなければならないのです。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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