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経営組織論と『経営の技法』#92

CHAPTER 4.3:基本の組織設計――機能別組織と事業部制組織
では、具体的な組織設計の形を見ていくことにしましょう。最も単純な組織構造はリーダーが1人いて、あとはみなリーダーの下にいるような単純構造と呼ばれる組織構造です。原初的な組織設計ですから、私たちが友人たちと共同作業をするときなども、このような組織で行うことは少なくありません。また、一般の経営組織に関していえば、設立当初のベンチャー企業などに見ることができます。
 単純構造の組織においては、部門化の程度は低く、権限は1人の人間に集中する集権構造となっています。マニュアルのような事前の調整は確立されておらず、ほとんどの意思決定はトップであるベンチャー企業家が行うことになります。この単純構造の組織の長所は、意思決定のスピードが迅速であるということ、そして責任が明確であることです。ですから、小規模で日々新しい課題がやってくるような組織において、単純構造は最適な組織ということができるのです。
 しかし、組織 規模が拡大して くると、単純構造の問題が表出してきます。
 1つは、集権が進んでいるために、組織の上層が情報過剰になり、意思決定が遅くなってしまうことです。その背景には、規模が拡大することで処理すべき意思決定も、情報も多くなることと同時に、専門的な課題も生まれ、1人の人で処理するには難しくなることも挙げられます。
 組織規模が拡大する中で、単純構造が最適でなくなるもう1つの理由は、単純組織では意思決定を1人ないし少数に依存するために、その人が暴走してしまうと組織がそのまま暴走してしまう危険性を持つからです。いわゆる「エースで4番」が引っ張るようなチームにおいて、この選手がケガをしてしまったり、調子を落としたりしてしまえば、とたんにチームカが落ちてしまうことがあります。
 そこで具体的に、ここまで述べてきたように部門化を行い、階層を作っていく必要性が生まれてきます。そのうち一般的なのは、職能別に部門化を行う職能別組織と製品別に部門化を行う事業部制組織の2 つです。順に紹介していきます。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』84~85頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村・久保利・芦原/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 本文では、経営者の暴走や、経営者の事故が具体例として示されています。たしかにこれも、会社組織のリスクです。
 けれども、ここでリスク管理と言っているのは、経営に対するチェックや経営機能の補強、という問題よりも、会社がリスクを取ってチャレンジできるようにするためのリスク管理が、主なテーマであり、問題意識です。したがって、製品の品質をどうやって維持し、高めるか、というような業務そのものと、リスクは、一体のものとして把握し、それをコントロールする組織やプロセス、運用を検討すべきです。
 とは言うものの、本文で、会社の規模が大きくなると、これらの経営に関するリスクを減らすために、部門化と階層化を行う、ということが述べられています。会社組織自体がリスク管理のツールである、ということが示されていますので、この観点から、さらに、製品の品質のようなビジネスに関わるリスクにまで視野を広げてゆきましょう。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から経営者を見た場合、市場を通した投資(株式の購入)の段階にまでなれば、会社組織は部門化と階層化がされているのが通常でしょう。
 けれども、ここでも紹介されたベンチャー企業などであれば、上場を目指している段階で出資を求められる場合もあり、その場合には、部門化や階層化の設計段階から、投資家として会社に関わることになります。
 このような場合、投資家は経営者に余計な口出しをすることを、会社法の構造としては想定されていません(所有と経営の分離)が、実際には、出資者は経営者をサポートして、時には良き理解者としてアドバイスすることも期待されます。言うなれば、所有と経営の分離ができるまで、つまり株主が余計な口出しをしなくてもよくなるまで、経営者と会社を育てる、という段階です。
 この場合の投資家のアドバイスは、投資先の経営者と会社が育ち、株主からのアドバイスなどがなくても独り立ちできる方向に向けたものである必要があり、だからこそ、投資家は会社組織のあり方について、それなりの知識や経験、知見が必要となります。

3.おわりに
 いよいよ、具体的な組織設計が始まります。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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