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ショートショート『ハンドルさばき』

十代の少年が無免許で車を運転し、バイパスの道路を百キロを越えるスピ―ドで走り続けていた。

少年の目は血走り、顔には大粒の汗がふきだしていた。口もとにも興奮しているせいなのかよだれも流れている。

対向車は警笛を鳴らしパッシングを続ける。なぜなら少年の乗る車が道路の中央を走っているからだ。

パトカ―や白バイが追いかけている。警報を鳴らしているが少年は知らぬふりをきめている。

「前の車、いますぐ安全な場所で停車しなさい」

再三の警告に少年は耳をかさない。
少年は嬉々として運転を続ける。

ゲ―ムで覚えたのかハンドルさばきがうまい。衝突しそうになるたびに急ブレ―キをかけ、ハンドルをきって対向車を避けているのでいまだ事故には到っていない。

少年はバイパスを降り、市道にでる。バイパスとちがって渋滞している道路でも強引な運転はかわらない。歩行者はさほど顔色をかえることもなく車をさける。対向車も停車して少年の車に道をゆずっている。

やがて少年の前にはパトカ―が三台が立ちふさがって、少年の進路をさえぎる作戦にでたらしい。ほかの車は避難したのだろう、周囲は人も車もみえない。

しかし、少年はかまわずスピ―ドをあげてパトカ―に突っ込んだ。
トタン屋根に大きな石を投げつけたような鈍い音がした。パトカ―は勢いに負けてうしろにずれて、そのすきまから少年は前に進んだ。

パトカ―に乗車している警察官の顔は無表情だ。
少年の乗った車には損傷のあとがない。特製の車だといっても不思議なくらいに頑丈な車だ。

しかし、運命の時はやってきた。前からどでかいダンプがやってくる。少年は中央を走ることをやめない。少年はアクセルを全開。ぶっとい警笛音が鳴り響き、急ブレ―キをかけたタイヤが道路を掻きむしり鈍い音をたてる。あらゆる操作も空しく、少年の乗った車は回転をしながらダンプに突っ込んだ。

「なにをやってんだ、おまえは!」

教官の怒声が教室内に鳴り響く。まだ二十代前半であろう若い教官は、三十人もいる生徒のなかで、バ-チャル模擬運転をゲ―ムにしている少年をみつけたところだった。

十八型ほどのサイズの画面には、STOPという大きな赤い文字が浮かんでいた。

「おまえは自動車を運転する資格はない。さっさと出ていけ!」

少年はVR運転装置をはずされ、模擬運転教習室から追い出された。
そのようすを監視カメラでみていた校長がやってきて、

「君は不採用だ。帰りたまえ」と告げた。

教官は合点がいかない表情をしている。

「君は生徒を教えることには向いていない。最初に話したように、私は書類や面接よりも、試験的に仕事をやらせて採用を決めている。君のように、短慮なハンドルさばきの性格では生徒が減るばかりだ」

採用試験に落ちた男が肩を落として帰ると、教室から追い出されたはずの少年が再びあらわれた。そして校長はその少年にアルバイト代を手渡した。

(fin)

トップ画像のクリエイターは「素晴木あい@ AI絵師」さんです。
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