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不協和音(6)

宮路という未知数のメンバーをギターに得て、とりあえず楽器隊は三人揃った。あとはボーカルを探すのみとなったわけだが、その点は張り紙以外にも成田の努力が身を結ぶこととなった。ネットのメンバー募集掲示板でボーカル経験者を見つけたらしい。しかもこちらが洋楽志向ということを理解しての話だ。

英語のボーカルがハマればそれはカッコいいだろうなと城は期待半分でいた。半分というのはそれまでの経験や日頃から見ている洋楽のコピーバンドに対して「やっぱり英詞を上手に歌えるボーカルなんてそうそういない」という事実を知っているからだ。

一週間後、宮路とボーカルの加入希望者を合わせて初の四人での顔合わせの場が取り持たれた。成田とボーカル希望者、城と宮路が向かい合って座る。ボーカル希望者は何と女性だった。

自分より歳下であるのは外見からわかったが、洋楽のボーカルなんてできるのかは判断つかない。本業は美容師というだけあって髪型も編み込んだようなこだわりが見えたし、どちらかといえばダンサー的な服装だ。会話をまとめるのは募集した立場の成田とそこに乗っかった城だが、この二人もそれほどお互いを知ってるわけではない。スタジオ店員とたまたま趣味があった客というだけで、実際に彼らが会うこともスタジオ以来二度目でしかなかった。


でも合コンやお見合いではない以上、話さなければならないことは決まっている。まずはどんな曲をやるか、である。発起人である成田の趣旨は城から宮路に伝えてあった。宮路自身は邦楽や洋楽に特にこだわりはなく、むしろバンドという経験の場を楽しみたいという好意的なものだった。ではボーカルの彼女はというと、メタル寄りのコアな音楽性を好んでおりライブに行くことも多いらしい。洋楽邦楽を問わないけれども「高音よりは叫ぶことの方が得意だと思う」とのことだった。


城の率直な感想は「マジ?」だったし、それも顔に出ていたと思う。


正直なところ初見で会うメンツにそこまで言えるボーカルに驚いた。決して自慢気に聞こえるわけではない。でも好きな音楽やバンドに対する熱意が臆さずに言える。それだけでもフロントマンとしての姿勢は買える、と城は思った。まずはボーカルが歌えるという前提でコピー候補の曲をいくつか決め、初回のスタジオ入りの約束も取りつけた。

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