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こんな舞台を観てきた(2023年9月)

9月はミュージカル3作品を観劇。

↑これまでの観劇記録はこちら↑


スクールオブロック

ブロードウェイミュージカルの日本初演。
この作品は、2017年にブロードウェイで観劇したことがあったので、日本版がどんな感じになるのか、ずっと楽しみだった。
(本来は2020年に日本初演の予定だったけれど、コロナの影響で全公演が中止となった)

レプリカ版ではなく、日本のオリジナル演出(翻訳・演出は鴻上尚史さん)だったけれど、基本的にはオリジナル演出を踏襲していたと思う。
私が観劇した回は、デューイ役が西川貴教さんだったので、筋トレをいじるようなネタがあった。複数回出てきたので、アドリブではなく日本版の台本で書き足されてたものだと思う。
(いわゆる「中の人」をいじるネタは好みではないが、物語の流れを止めるほどの脚色ではなかったので、あまり違和感はなかった。)
気がついた範囲では、わかりやすくローカライズされていたのは、その点くらいだった。

セットも、大まかな作りはBW版と変わらなかった。(美術:松井るみさん)
一部、セットを作らず、映像でカバーしていたところもあったが、この辺りは予算の都合で致し方ないところなんだと思う。(映像:冨田中理さん)
一番メインとなる教室のセットだけは、二階部分まで作り込まれていて(しかもこの二階部分は使われることはないのに…!)贅沢で非常に良かった。

キャスト

デューイ・フィン役の西川貴教さんは、本業が歌手なので、ロック歌手のデューイはぴったりの役柄だった。バラエティ番組等でトーク力を発揮されている通り、観客から笑いを引き出すのもお手のものだった。
前回、拝見した「サムシング・ロッテン!」(2018年)は歌が少なかったが、今回は全編にわたって、西川さんの歌唱を堪能できた。
演技は少し大味な部分もあったが、ライブシーンでの説得力が素晴らしく、納得のキャスティングだった。

ロザリー・マリンズ役の濱田めぐみさんは、私にミュージカルの面白さを教えてくれた俳優さん。濱田さんきっかけでミュージカルを見始めたと言っても過言ではない。
劇団四季時代は、「アイーダ」「ウィキッド」のタイトルロールなど、地声をバリバリ鳴らす役柄が多かったけれど、退団されてから「ラブ・ネバー・ダイ」のクリスティーヌなど高音が求められる役柄も演じられるようになった。
(思えば、「ラブ・ネバー・ダイ」のクリスティーヌも、今回のロザリー・マリンズもオリジナルキャストは、共にSierra Boggessさん。)

話が横道に逸れたが、個人的には今回の役柄は、ここ数年演じられてきた役柄の中でも上位に入るハマり役だと思った。
二幕に歌う”Where Did The Rock Go?”が、芝居歌として完成されていて、「これぞ濱田めぐみの真骨頂だ!」と感激した。一曲歌うだけで、一気にミュージカルの世界が広がる感覚を感じた。
もちろん贔屓目も入っているかと思うが、間奏部分でフライングの拍手が巻き起こるくらいには、場内も引き込まれていた。

↑濱田めぐみさんの話はこちらでも↑

ネッド・シュニーブリー役の梶 裕貴さんを拝見するのは今回が初めて。
音響が悪いと評判のブリリアホールでも、さすがの美声で、台詞が聞き取りやすかった。
声の良さは声優のみならず、舞台俳優にとっても重要項目だと思うので、ぜひ舞台活動も続けてほしいなと思う。

パティ・ディ・マルコ役のはいだしょうこさんも実際に拝見するのはおそらく初めて。バラエティ番組での天然キャラの印象が強いけれど、流石のお芝居と歌声だった。
パティは、客観的に見ると一番の常識人だけれど、この作品では一種の嫌われ役を担っている。はいださんのパティは、口うるさいけれど、ネッドへの愛情も感じられる絶妙なキャラクターに仕上がっていた。
ロザリー・マリンズ役のカバーキャストも担当されているとのことで、濱田さんのロザリーとはまた違うキャラクターになりそうだなと気になった。

生徒役の子どもたちは、可愛らしいだけでなく、楽器演奏も歌も達者で素晴らしい。感情が昂るシーンでは、台詞が聞き取りにくい子もいて、そこは少し惜しいなと思った。(賛否両論はあるが、こういう時に四季の母音法は有用だと思う。)

最後にブロードウェイ版と比較して思ったことを二点だけ。
ブロードウェイ版は、非常にカラフルなキャスティングだったけれど、日本で上演すると、この辺りのニュアンスが非常に薄くなるなと感じた。
(ブロードウェイで観劇した際には、サマー役をアジア系の子役が演じていたのが印象的だった)

私が観た回は、観客のリアクションがとても良く、歓声や指笛まで聞こえた。
ブロードウェイでは、デューイがサマーのことを「女性初の大統領になる存在だ」と親御さんたちの前で高らかに言うシーンで、大歓声が巻き起こっていたが、日本ではこのシーンで観客からのリアクションはなく、お国柄の違いを感じた。

誰が観ても楽しめるような王道ミュージカルだと思うので、「ビリーエリオット」同様にホリプロの大切な財産として上演し続けて欲しい。

2023/9/9 マチネのキャスト

ラグタイム

こちらも日本初演のブロードウェイミュージカル。

ブロードウェイでの初演は1998年だそう。
ユダヤ人・黒人・白人の3つのコミュニティーを通して、人種差別や移民などを描いた作品なので、日本初演まで25年かかるのも何となくわかる気がする。

作品としては、歌も踊りもじっくりと見せるクラシカルなミュージカルだなという印象を受けた。(とはいえ、決して古臭い印象は受けなかった)

群像劇なので、もう少し人物の書き込みが欲しいなというところもあったが、特に予習をしなくても一回で内容は理解できた。
イヴリン・ネズビットやハリー・フーディーニなど、実在した人物も数名登場するが、あまり本筋に絡んでくるわけでないところが、何とも不思議な感じだった。(この辺りの人物のことを知っていたら、存在意義をもっと感じられるのかもしれない)

ちなみに、二幕で銃が用いられるが、銃声はいずれもSEだったことを備忘録的に書き残しておく。

↑銃声が苦手な話はこちら↑

演出

あくまでも個人的な意見ではあるが、藤田さんの演出は、コンセプトが前面に出過ぎていて、「もう少しシンプルでもいいのになぁ」と感じることもしばしばあった。

今回の「ラグタイム」では、「映画監督になったターテからの目線」という枠組みを作っていた。
とはいえ、そのアプローチが強く押し出され過ぎることもなく、この方の演出作品では一番好きだなと思った。

いいなと思った点をいくつか。
まず、日生劇場の広い空間を上手く使用されていると感じた。
メインのセットとして、他の演出作品でも使用されている、高低差のあるセットが用いられていた。今回の作品では、この高低差が人種による階級差をビジュアル的に上手く示していた。(美術:松井るみさん)

また、前評判でも聞いていたが、「白人は白い服装」、「黒人は原色を貴重とした服装」という様に、衣装で人種の違いを示す試みを上手くハマっていたと思う。(美術:前田文子さん)

ラストシーンで、キャストが一列に並んで、奈落からせり上がってくるシーンも、とても良かった。

キャスト

メインの御三方は流石の一言。舞台をピシッと引き締める存在感だった。

今回、特に印象に残ったのは、サラ役の遥海さんと、ブッカー・T・ワシントン役のEXILE NESMITHさん。
お二人とも拝見するのは今回が初めてだったが、いい意味で衝撃を受けた。

サラ役の遥海さんは、とにかく歌が素晴らしい。
曲の前奏部分のハミング?のような箇所だけでも、その実力が十分に感じられた。グルーブ感のある歌唱と言えばいいのだろうか、その歌声がサラという役柄にぴったりだった。
これから観てみたい役柄がたくさんあるので、また舞台でお目にかかれることを楽しみにしている。

ブッカー・T・ワシントン役のEXILE NESMITHさんは、深みのある声が印象的。
黒人の同胞へ呼びかけるスピーチにたいへん説得力があった。
歌手の方なので、お芝居の経験はあまり多くないのかなと勝手に思っていたが、演技も素晴らしかった。
現在の日本のミュージカル界では、こういった低音を武器にしているプリンシパルはまだ少ないと思うので、さまざまな作品で活躍できると思う。

また、ヤングブラザー役の東 啓介さんのひたむきな演技や、エマ・ゴールドマン役の土井ケイトさんの的確かつ口跡の良い演技も印象的だった。

正直、日本ではまだまだ馴染みが薄いテーマであるが、それでもしっかりとドラマが感じられたのは、このプロダクションのクオリティの高さゆえだと思う。
その一方で、自国でも語るべき題材は多くあるはずなので、それを取り上げた社会派のオリジナルミュージカルも観てみたいなとも思った。


生きる

黒澤明監督の同名映画のミュージカル版。

今回が再々演で、私は19年の初演を一度観劇している。
細やかなブラッシュアップはされていると思うが、全体の流れは初演時と変わっていなかったと思う。

今回観劇して、改めてこの作品は「渡辺勘治の物語」なんだなということを強く感じた。
主人公・渡辺勘治の言動にどこまで共感できるかで、この作品の印象は大きく変わるのではないかと思った。
私は初演も今回も、「役所の人間の主張や、息子夫婦(光男・一枝)の主張にも、一理あるな」と視点がぼやけてしまい、物語に没入しきれていない気がする。一方で、渡辺勘治の言動に関して、とよに付きまとい、『職場には来ないで』と拒絶されるシーンは「どういう気持ちで見ればいいんだ」と思ってしまった。

他のミュージカルと比べ、年配の男性の観客が多く見受けられた。
私も歳を重ねれば、この作品をより自分と重ねて楽しむことができるのかもしれない。

「ラグタイム」も同様だけれど、二階席から観劇していると、床の場ミリが目立ってしまうのが、非常に残念だった。
特にラストシーン、渡辺勘治が真夜中の公園でブランコを漕ぐシーンは、青い照明と白い紙吹雪がとても美しいのに、舞台床のカラフルな場ミリが目立ってしまい、演出の良さを壊してしまっていると感じた。

キャスト

渡辺勘治役は、市村正親さんと鹿賀丈史さんのWキャスト。
私が観たのは鹿賀さんの回。ボソボソと喋る一幕の芝居が、渡辺勘治というキャラクターにぴったりで、とよに影で「ミイラ」と呼ばれているのも納得の生気のなさ。
唸り上げる様な鹿賀さん独特の歌い上げも健在で、東京公演の千秋楽ということもあってか、一幕ラストの「2度目の誕生日」では一段と気迫が感じられた。(鹿賀さんの歌唱にきっちりと合わせてくる指揮の森 亮平さんもさすがだった。)

小説家役は平方元基さん。
平方さんはどの役でも、どこか優しい雰囲気が漂うけれど、今回も「つい渡辺勘治に手を差し伸べてしまう性根は優しい小説家」という印象を受けた。
初演で観た新納慎也さんの小説家は、ニヒルな印象を受けたので、全く異なる小説家像で面白かった。
これは役者への感想ではないけれど、小説家は狂言回しにしては、随分と主人公に肩入れしている役柄だなと思った。「エビータ」では、チェ・ゲバラが狂言回しを担当しているように、主人公と対立したり、心的な距離がある役柄が狂言回しを務める方が、物語がより多角的になるのではなかろうか。

また、初演から参加されている佐藤 誓さんのお芝居も印象的だった。
病院で渡辺勘治に話しかける患者役で、軽やかに杖を振り回すところが特にお気に入り。リアルなお芝居とミュージカルのダイナミズムの塩梅がとてもよかった。

2023/9/24 マチネのキャスト

精力的にオリジナル作品を製作し続けるホリプロの姿勢は大好きなので、これからもオリジナル作品が上演された際には積極的に観劇したい。


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