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抜けられない、時間の螺旋。

10日目の夜から14日目まで。

目の前はノイズ。
渦のように引き込まれていく日々。

これは、そんな悪夢の記録。


前回の日記はこちら。最後から続いています。

いったいニューヨークで何してるんだ──。



青い壁に囲まれたリビング。
柔らかいソファの上。
椅子にスーツケースを乗せ、さらにその上にはMacBookが置かれている。

窓のない半地下の部屋。
光は照明のみ。
トイレとソファの往復。


時間の感覚が失われていく──。



時差ボケ、なんて今更ない。
環境に適応できないほど鈍感じゃない。

だけれど、確かに「時差」にはやられていた。

日本での忘れ物。いや、荷物か。
お別れを告げることができなかった仕事。

できる限り持ち物は減らしてきたのに。
強烈に重くて厄介なものがあった。

ニューヨークと日本の時差は13時間。

ギャップタイムを用いてみんなが寝ている間に作業を進めることはできる。

そこは良い点。

だが、非常に危険。


ニューヨーク時間で健康的に活動した後、日本時間に入っている打ち合わせをこなすと、丸一日、24時間をフルで使うことになる。そして、24時間使用後もまた同じく24時間は始まっていく。

下手すると無限に起き続けなければならない。



合間合間で、わずかに仮眠時間は取れた。

けど、1時間寝てまた打ち合わせ。

次は30分しか休みない…

次は…

この繰り返し。

タイミングがいい時でMAX3時間ぐらいしか空きがなかった。


その貴重な3時間。


目を閉じて寝ようとする。



眠く、、ない。



頭はめちゃくちゃ疲れてる。

ずっとぼーっとしている感じ。




知っている。

これは、自律神経の乱れ。

未だ人類が解明しきれていない自律神経。たいてい何か体調が悪くなったら、悪いもの扱いされる自律神経。メンタルもおかしな方向にいく自律神経…。


それでも、3時間を大切にしようと無理やり眠ろうとする。

目を閉じで、頭は眠くないけれど疲れた身体が先に眠る。

鮮明に感じる頭の中に流れる光景。

内容はさすがに忘れてしまった。覚えているのは展開がどんどん悪くなっていくこと。


明晰夢だから、なんとかしようと身体に力を入れて抜け出す。

頭の中の場面が変わっては、夢から抜け出すを繰り返した。


何度目かで身体が言うことが効かなくなる。

うっすらと聞こえる、バスルームの換気扇。


段々と音が近づいてくる──。


音が粒のように広がって映像を埋め尽くしていく。


テレビのブロックノイズのような粒子が渦を巻いて、その渦の中に引き込まれていくような感覚。


知ってる。


これは、金縛りだ。


耳の中にハエが50匹ぐらい飛んでるんじゃないかってぐらい、激しく震えて痛めつける音。


思考は働く。
でもどこかに落ちていく感覚がある。
このまま寝れるかもしれない。
でも耐え難い苦痛。

抜け出したい。


黒い海の中で白い粒々に埋め尽くされて溺れていく。溺死ってこんな感じなのか───



「電気消していいですか?」


夢の底の底に落ちてしまいそうなところ、堂福の声に助けられた。


急に身体が動くようになる。


危なかった。

何が危ないのか正直わかっていないけれど、このまま眠りに落ちるのは危ない気がした。


結局時間は30分しか経っていなかった。
寝るのは危険な気がしたから、そのまま起き続けた。


体調、まじで気をつけよ。


その後満足に寝れない日は続いたけれど、本気で自律神経を直すことに注力しようと試みる。

朝じゃなくて夜にシャワー浴びたり。
執拗にビタミンを追い求めたり。
乳製品飲んでみたり。

陽の入らない地下室から出て、少しでも散歩してお日様を浴びる。
これがなによりも大事なんだと気づく。

太陽、偉大すぎる。



そんな金縛りで頭の中がノイズの海になっていた僕にシンクロしたのか、パソコンのグリッジ具合がいつのまにかかなり酷くなった。

この上下のグリッジがチカチカしてて病みそう。

この画面見てるだけで頭おかしくなりそう。

頭をおかしくしないために、ノイズ系の音楽で音ハメすればいいんじゃないかと思いつく。

"Berlin" 
Alva Noto & Ryuichi Sakamoto

この曲が一番はまる。

同じように収録されているアルバム『Insane』を垂れ流して作業していく。


これがなんとも捗った。

機械的スピード。

何か新たな世界が開けたような気がした───。



けれど、やっぱり人間らしい生活が一番。

この旅で強く感じたこと。

日本で仕事に溺れる日々から脱出しようとニューヨークへ来たのに、時差というノイズによってもっと酷い溺れ方になっている。


でも、なんとか泳ぎ切らねば。
もがきながらも。
長い長い、海の先にあるベッドへ──。



気持ちいい。


超気持ちいい。


アテネ五輪を思い出す。

仕事が落ち着いて、ようやくちゃんとした睡眠が取れるとなった僕は歓喜した。


当たり前だけど、寝るのって大事だ。

睡眠と太陽を浴びること。
ニンゲンの栄養。


そんなこと、知ってた。

--

これはNYから旅立つ前の空港で書いています。

この後、仕事を落ち着かせ、ようやく人間らしい睡眠時間と、ニューヨークでやり残したことを回収できました。
残りのNY滞在日記は、到着してから。


これからカンヌへ向かいます。

5年ぶりのフランス。
でも初めての南仏。

フランス語、思い出せるかな。


次回、NY篇最終回。



旅もあとわずか。
これまでの日記はこちらから読めます。


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