iNa INAGUMA

weekly flash story と題して短編小説書いている、プランナー・コピーライター。 Word Works Archives

eclipse

きっと意味のないところで鳥は鳴かない。
 そう教えてくれた人の想い出はぼんやりと、竹と樹々で陽の光を阻んで薄っすらとした公園の記憶と共にある。ただそれが幾つの時だったのかは思い出せやしないし、ましてやそんな公園があったのかすら疑わしいくらい、今ではアスファルトに靴を擦り減らし陽を遮るのは鉄筋コンクリートのビル群という大都会を歩く日々。鳥の声は聞こえるようで聞こえず、排気ガスの音が減ったとはいえ、ア

もっとみる

枠内

目の前にいたその女は画面とは別物だった。
 画面からそのまま飛び出た姿を何度となく思い浮かべて、特に昨日の夜はじっくりと食い入るように眺めて少し長めに慰めていただけに、期待と現実との溝は深すぎて思わずスマホの厚みを確認したけれどいつも通り薄っぺらくて軽い。
 液晶が薄かったからなのか、夜になると眩しいくらいの光源だからなのか。ほんのりと内側に赤らみがあるようでキメの細かい色白の肌に、頬のあたりがシ

もっとみる

不浄

ゆっくりと静かに開かれた扉からは女性が出てきた。このタイプの扉であれば多少は金属の擦れる音がしそうなものだが、木琴を綿糸のバチで優しく打つように小気味良く取っ手を捻った音しかしなかった。音を表したように軽やかでいて落ち着きのある若い女性で、彼女は爽やかな甘みのある、あれはなんという花だったか白く艶のある花びらが頭に浮かんでくるような香りと一緒に、すみませんと息を吐く程度に小さい声で狭い通路を私を避

もっとみる

下道と高速

「雪が降ったら火の元注意」という小学生が絵を描いたらしいポスターの横に「毎週あなたを待ってます。継続に裏切られるな。」と二行に言葉を積まれたスポーツクラブのビラが貼られている。歩いていても気づかれない場合もあるだろうに道路の隅に建てつけられ自然に風景と馴染んでいる雨風にさらされた白い立札には上原自治会掲示板と書かれており文字は所々が削れていた。このポスターやビラがいつ掲載されたもので、いつまでここ

もっとみる

流れていかない

指先一つで、想い出は消えました。
 桜の開花宣言が出され春がきたと言われましたが、曇り空に包まれた海辺では冷たい風がどこからか運ばれてきて、液晶パネルも霜みたいに冷たくて画面を触る私の指はかじかんで実は消すのに結構時間がかかりました。別に一瞬で終わる作業なのだから家で暖かい布団にくるまりながらでもいいのではとあなたは思うかもしれません。その通りでしょう、私ですらなんでこんな寒い思いをしながらストイ

もっとみる