罪と罰

大学を卒業した僕は市役所職員の試験を受けていたが、なかなか受からず25歳になり焦っていた。

人生の迷子になった僕は、何を血迷ったか警察官の試験も受け始める。

方向性も何も無いが、フリーターという身分がきつくなっていたからだ。

当時スポーツセンター内プール監視員のバイトをしており、常連のお客様の中に警察官がいた。(以下常連の警察官)

普段から雑談をしていたので、「今度警察官の試験を受けるんですよ。」とポロっといった際には、その方は僕の置かれている状況をとても心配し、親身にアドバイスをしてくださる。

その日から何かと気にかけていただく日々が始まったが、結果的には最終面接で落ちた。

ただ、どこかでホッとした自分もいた。


手当たり次第受験していたけど、僕は方向性を見失っていたことに気が付き、一旦立ち止まりこれからについて軌道修正をしようと考え直す。

常連の警察官へ報告すると、残念がって「あきらめずまた受験し直せよ!応援してるぞ!」と励まされたが、心苦しかった。

もう警察官の試験を受験するのをやめるとは言い難く、相手にここまで善意で気にかけてくださることが申し訳ない気持ちになる。


そんな時期に、公務員試験の浪人仲間がとある財団の非常勤職員の試験を受けるのでついてきてほしいと言われ、一緒に受験をしたら合格してしまった。

あまりにもトントン拍子に合格したので、あっという間にバイト先を退職し、新しい仕事をしてなんとかこなしながら1年が経っていた。


久しぶりに元バイト先へ顔を出すと、常連の警察官がバイト先で僕について今どうしているのか問い合わせをしていたと聞く。

最後に挨拶できなかったし、警察官の試験を辞めることを言えず申し訳ない気持ちで心苦しくなるが、もう会うこともないしどうにもならない。

そんなある日、原付バイクを運転しているとパトカーのスピーカーから「そこのバイク止まって!」と言われたので原付バイクを止める。

パトカーからはまさかの常連の警察官が出てきた。


「久しぶりー!元気だったかー!」と笑顔で声をかけてくださり、僕も気が付いた。

常連の警察官も僕も偶然の再会に懐かしくなり、話が盛り上がる。


今何をしてるのかと聞かれたので、以下のことを伝えた。


・縁があってとある財団の非常勤職員をしている
・最後に挨拶をしたかったが、シフトが合わずに挨拶できなかった。ずっと気にかけてくれてありがとうと、感謝の言葉を述べる。
・今の仕事が合っているので正職員になるための資格を取って、正職員を目指すのでもう警察官の試験は受けない。

常連の警察官も「そうか、同僚になれないのは残念だけど、元気にやっているならもういいんだ。」と少し残念そうにされたが理解していただく。

ずっと言えなかったことをちゃんと言えた自分によく頑張ったと心の中で褒める。

ひと通り話をした後で、実は僕が、一時停止の標識の所を止まらなかったので呼び止めたのだと説明を受け、「ほんとにごめんな。こんな再会になるなんて。見逃すわけにはいかないんだ。」と言われながら


一時不停止 2点減点5千円罰金


これは僕が不義理をしたことによる罪と罰

そう受け止めて「いや、いいんです。僕が、悪いんです」と僕もコメントした。


もう僕たちは会わない方がいいんだ(警察にお世話になりたくはない)と心に誓い、僕たちはお別れする。

それ以降、僕は後悔をしないようにお世話になった人、挨拶すべき人には、最後にちゃんと挨拶をすることにした。

そして一時停止の標識ではちゃんと止まって左右を確認し続け、人生で上手くいかない時は、焦らず立ち止まろうと教訓にしている。

あの常連の警察官は元気かな?







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