ベーコンエッグ

無音の淵から、次第に焼け焦げる音が聞こえてくる。右手は感覚を失ってしまったかのように力なく垂れ、フライ返しはまるで宙に浮いているようだった。割り入れた卵に目をやるといつの間にか色を持つようになり、白と黄色のコントラストを保ったまま淵だけ茶色く焦げ始めていた。

火を弱め、グラスに水を注いでからキッチンの引き出しを開けてピルケースを取り出した。その中から朝の薬をプチ、プチとプラケースから押し出してプラケースを口に放り込んだ。尖ったプラスチックとアルミの感覚に一瞬わけがわからなくなったけれど、咄嗟に吐き出すことは出来なかった。そういえば、まな板の上にベーコンが置きっぱなしになっている。

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