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草・木・花

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マツバウンラン

ま遠く
オルガンの音(ね)
小学校舎から
運ばれてくる
子供たちの
歌唱(うたごえ)
腕のなかに
眠りから覚めて
彼女が微笑む
ふたりきりで
この部屋に
目覚めることの
しあわせ
ゆるやかに
たわむ薄むらさき

珈琲店にて

貴女が微笑んで
小首を傾げると
テーブル脇の
棚に置かれた
一輪挿しの水引草が
その髪にかかる

すぅーっと二本
きらめいてそれは
簪のよう

まだ間もない
二人の会話が
水引草に沿われるように
澪標を伝い
滑っていく

ときおり
ちらちらと
揺曳する
細かな紅に
照らされたりしながら

こたえて

こたえて
くれなくて
いいんだ
ただ そこに
いてくれるだけで

わかってほしい
だけど
かんたんにわかるよと
いってほしく
ないんだ

ただ そこにいて
いてくれるだけで
いいんだ
木がそこにあるように

涼しい目もと
という表現の適格さを
あなたに逢って
初めて知った
翳つくる長い睫毛
見つめられるたび
風が渡る僕の草原
見晴るかす遥か
うねる波
緑の光がきらめいて
どこまでも続く

ふたりしずか

荷物は半分にして分け合い
同じ夢を 夢見て

二人だけに
響き合う
こころ

少女

囀りを耳に
木の股から産まれたかった

静かな森を背に
小鳥や小動物や枝揺する風に
命運を振られて
転がり落ちた先
苔むす地の柔らかさに包まれ
芽吹いてみたかった

森の奥
濾過されて清らな
大地の水を全身に汲み
ただ一身に天を目指していたかった

澄んだ空気を胸に
注ぐ光のなか
ひたすらな植物の生を
生きていたかった

はな

少ない仲間に見まもられ
黄色いワンピース着た少女は
恋人の出棺にすがって立ちあがり
止まると
そのままスローモーションでくずおれた

樫の巨木(き)が在る

かつて
この地に
独りの巨人(ひと)の
席捲(せき)したことを
偲ばせて

地に巨人(ひと)はあまり
立ち尽くし

時劫(とき)のかたへ

遠景の淡い色調のなかに
あなたは立っている
黄水仙のように裸で
摘む人が誰かあるものか
届かぬ花のあなたを

恢復期

病室の窓辺
娘と母が外を見ている

庭一面の鮮やかな緑
5月の午後

木蔭に涼む恋人同士
立ち上る陽炎
揺れてbaser

「いつまでも見てないの」
「夢のよう、ね」

噴水をうけている睡蓮の花
(なんて白いんだろう)

伝説

冬将軍の先駆けの兵
木枯しが
攻め入った先で恋に落ちてしまう
「秋」に仕える娘の一人
その素直な美しさに
焦がれ拒まれ日を重ね
救う手立てを得られないまま
光のなか透き通って逝く娘を送る
徒手空拳
立ち尽くし動こうとしない兵の心が
砕け、風に散り
冬を迎えた