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読書譚6 「F機関」

F機関

【F機関 アジア解放を夢見た特務機関長の手記】

2012年7月10日 初版発行

著者:藤原岩一

発行所:バジリコ株式会社


▽読書譚6

年内に読みたかった本の最後の1冊「F機関」をようやく読むことができました。9月頃、東京駅前の八重洲ブックセンターで探したのですが見当たらず、かといって通販で買う分の小遣いはすでに使ってしまっていたので、また次の機会にするかとしばらく頭から離れていたところ、地元の図書館でブラブラと書棚を眺めていたら、背表紙に「F機関 アジア解放を夢みた特務機関長の手記」というタイトルが目に止まり、この本1冊だけをもってカウンターで貸出の手続きを済ませました。


▽もうすぐ戦後80年

1945年の日本の終戦から数えて今年は76年になります。第二次世界大戦、太平洋戦争、大東亜戦争等々日本最後の呼称は様々ありますが、なぜ大東亜戦争と呼ぶのかは正直いまいちピンときていませんでした。

この呼称にはこのときの日本が、アセアン地域へ戦線を拡大した「侵略戦争」といった印象を個人的にもっていたからかもしれません。そんな侵略のような行為をしたのち敗戦を迎えた戦争に対しては、大東亜戦争という古い日本語のような呼称はなんだかおどろおどろしく、少しだけスマートな太平洋戦争という呼称のほうが自分のなかではしっくりとしたからなのかもしれません。この本を読むまでは…。

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▽自分の浅はかな知識を上書き

F機関という存在をはじめて知ったのは、私が代表理事を務めるアセアン進出支援協会のWEB講座のテキストを作成しているときでした。ご存知のように、アセアンの各国はその歴史上、長く欧米国の植民地化に置かれてきました。インドネシアはオランダ、ベトナムはフランス、ミャンマーはイギリスといった具合で、200年以上欧米国の植民地下に置かれている国もありした。

大東亜戦争終結後はほどなくして多くの国が植民地支配を脱し、独立を果たすことになるのですが、私は世界戦争が終結したことでそうした機運が高まり続々と独立をしたのだろうと思っていました。

しかし、当時の日本がアセアンの国々に関わったことが決して無関係ではなかったことをこの手記を通して知ることができたことは、私がこれまで当時の戦争に対してもっていた見方に別なインパクトを与えてくれました。

もっとも戦争ですから綺麗ごとではありません。日本がアセアンの国々、とくにインドシナ半島へと展開していくなかで、当地の人々を味方につけなければ戦力も物資も足りないなかで連合国を相手にすること自体無理な話しであり、こうした背景もあって現地民族の自発的決起を促し味方を増やすために働きかける(工作する)、とした作戦が考えれたのかもしれません。

しかし、この作戦を実際に指揮した著者は自らの信条として「日本の工作は民族の自主と解放と独立を理解し、支援する線に沿って行われるべき」とし、又ことにあたっては「謀略を求めず、誠心あるのみ」と考え実行した現地での行動が、結果として当地の人々の意識を高め各国の独立へと繋がっていきます。

▽ただ負けたのではなく

373ページに及ぶ手記のなかでもっとも印象に残った一文は、日本が戦争に敗れ著者が戦犯容疑者としてイギリスに拘留されていたときに、インドの独立を指導していたインド人有識者から伝えられたという次の言葉でした。

「日本がこの度の大戦に敗れたことは、真に痛ましい。(略)。インドがほどなく全うする、その独立の契機を与えたのは日本である。インドの独立は日本のおかげで30年早まった。これはインドだけでなく、ミャンマー、インドネシア、ベトナムをはじめ、東南アジア諸民族共通である。」

そして、この人物は著者にこうも投げかけています。「日本は、はじめて配線の痛苦をなめることとなり気の毒である、しかしどの民族でも、幾度もこの悲運を経験している。一旦の勝敗のごとき、必ずしも失望落胆するにあたらない」と。

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▽小さな気づき

「独立」という言葉は一個人の成長過程でも使われますが、大なり小なりこの「独立」を支援するためには、相手を理解すること、そして相手の独立のために真に必要な支援をすることだと考えています。

支援する側は相手を理解するための努力を惜しまないこと。それが思いやりとなり、次のステージに繋がっていくのではないか。

これまで読んだことがある戦争関係の本は、戦争の歴史的背景だったりするものが多かったのですが、この本はそうしたものとは違ういわゆる「異色」でした。

言い回しが硬く読みにくい印象はありますが、無骨な感じがより当時のリアリティさを醸し出しているんだと言い聞かせながら読み進める価値があります。

少子高齢化の時代に突入している日本。外国人材を頼ろうと技能実習をはじめとした様々な施策が打ち出されているなか、海外に出ていこうという人だけでなく、海外からの人を受入れようという人たちも読む価値あるオススメの一冊です。

2021.11.07 阿部 勇司




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