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映画「タクシードライバー」の映像表現の研究 その2

はじめに

映画「タクシードライバー」研究の第2回目です。
今回は10分までの演出を考察しています。
先はまだまだ長いです。

抑えておきたい構図

 写真や映像の構図の基本として、三分割法というものがあります。画面を水平、垂直方向に三分割し、それぞれの交点に被写体を配置する方法です。三分割法を用いると画面が安定します。逆に意図的に交点からずらして、不安定な画面を構成する場合もあります。私は、仕事でも趣味の写真撮影でも意識的に活用しています。

仕事終わり 7:29 ~ 08:08

タクシーが配車所に帰ってきます。監督は物語を映像で語りたくないのでジャンプカットでつないでいると語っています。

 カメラワークはトラヴィスのタクシーが中央から←方向にフレームアウト。タクシーの進行方向とは逆にパンして、再びタクシーがフレームインします。状況説明のショットです。ただの状況説明だけなら、タクシーをフレームし続けてもいいはずです。
 ここでも孤独感をではないでしょうか?演出していると思われます。パンするときに映るのは暗い室内にタクシーしか映りません。タクシーがフレームインした先には人はいますが、後を向いています。帰ってきても誰も出迎えてはくれません。あるのは、孤独のメタファーであるタクシーだけです。
 
 次のショットでは、トラヴィスのミディアムクローズアップで、トラヴィスの様子を映しています。ここでトラヴィスを印象付けるために、前のショットで、トラヴィスが映らないようなカメラワークにもなっています。
 構図は、←方向を向きながら。三分割法に基づいて配置されています。ただ、薬を服用した際に頭の位置がずれて、少し不安定な構図になります。トラヴィスの状態と構図がリンクしているということです。
 トラヴィスがタクシーからでるとカメラがドリーアウトします。外が明るいです。一晩中タクシーを走らせていたことが分かります。車外にでると、ミディアムショットになります。三点分割法で配置されているので、画面は安定していますが、頭の上に空間がない為、窮屈な印象がでています。

 ジャンプカットで、タクシーの清掃のショットになります。先ほどのショットより少し引いたカメラですが、トラヴィスのフレームの配置は同じなので、そこまで、飛んだ印象がないようにしています。トラヴィスが車内掃除をしているのに合わせて、背景では車の洗車が行われています。ただし、ここでもエキストラの顔が見えないようにしています。
 雑巾を投げ入れて振り返りますが、そこでカットが切り替わります。←方向で構成されているため、→方向の動きにならないように編集されています。
 
 ジャンプカットで、タイムカードを打刻するショットになります。先ほどのトラヴィスの最終位置に打刻機が配置されるため、観客が何を注視すべきかが迷わないようにカットがつながれています。ちなみに、時刻は6時10分です。

ポルノ映画へ 8:08 ~ 8:20

 朝から酒を飲みながら街を歩いています。このショットは宣伝ポスターに使用されています。
 面接後にも、酒を飲みながら街を歩くショットがありましたが印象が異なります。画面も明るく、ディゾルブも使っていません。また、同じ方向に歩くおじさんが三人もいます。かなりポジティブな印象を受けます。そうです、トラヴィスは、ポルノ映画へ行くのが楽しみなのです。
 次のショットでポルノ映画に入店します。8番街に実在したポルノ映画館です。


ポルノ映画 8:20 ~ 10:08

 ドアを開けて映画館に入ります。明るいところから暗いところへ。アングラ感が漂います。
 
 次のショットでは、右側が真っ暗で、左側がライトに照らされています。トラヴィスは一度闇に紛れます。光を求める虫のように引き返します。トラヴィスにとって、女性 = 光なのでしょう。ミロのヴィーナスの石造もライトに照らされて、存在感があります。ミロのヴィーナスは女神アプロディーテーの像と考えられています。女神アプロディーテーは、愛と美と性を司るギリシア神話の女神です。ポルノ映画館にぴったりのオブジェです。

 トラヴィスは売店員を見続けていますが、売店員は本に目を落し殆どトラヴィスを見ません。石造の目線もトラヴィスには向けられてはいません。誰もトラヴィスと目線を合わせないことで、同一画面上にフレーミングされていても孤独感を演出されています。
 名前を尋ねたが無視されたトラヴィス。机をとんとんと叩いて、少しイラつく演技がなされています。また、右側が暗いことで、構図が左側に要素が偏っています。画面に対して窮屈感を与えて、観客により緊張感を伝えています。

 売店員が耐えかねて支配人を呼びます。そのショットでは、二人の距離が離れた構図になっています。売店員の声や構図で、先ほどまでの緊張感が解き放たれます。
 次のショットでは、販売員に完全に拒絶されたので、トラヴィスが話すショットでは、原則通り一人だけになっています。
 肩越しの販売員のショットでは、やはり全くトラヴィスと目を合わせていません。
 二人をフレーミングするショットに戻ります。トラヴィスは気まずいのか目を合わせなくなりました。
 真上からのショットです。真上からのショットは儀式的な意図があることから、今からポルノ映画を見るための儀式ということです。
 商品を受け取ると、売店員に一瞥し去ります。

 映写機にズームするショットが挿入されます。ピントは映像に合っています。女性の陰部を触っている映像だと思われます。英語圏では、映画館の看板に「XXRATED(X指定)」と書かれているので、ポルノ映画だと分かりますが、それ以外の言語だと、トラヴィスがどんな映画を見に来たのか分からないです。また、上映中のスクリーンをぼかす処理が必要がありました。そこで小さい画面ならという事で、このようなショットが撮られたと考えられます。

 映画館を全体的に移すショットです。全員スクリーンを見ているので後姿です。また、途中から入ってきたトラヴィスにも無関心です。フレーム内には大勢の人たちがいるのにも関らず、孤独感が漂います。 トラヴィスが着席すると、←方向にカメラがトラックします。ピントはトラヴィスにしか合っていません。これはトラヴィスは映画を、周りを一切気にせず集中してみているためです。


部屋 10:08 ~ 10:20

 トラヴィスがベッドに寝転がっているショットです。→方向に向いているので、リラックスしているのでしょう。ベッドの横の箱にはたくさんのファストフードのドリンクや薬のビンが置かれています。私生活が想像できるカットです。


ここまでで

 オープニングからここまで、シーケンスが2回繰り返されています。
 前半部は、【タクシー → イベント(タクシー面接) → 路上 → 自室 】という流れです。後半部分では、【タクシー → 路上 → イベント(ポルノ映画) → 自室 】となっています。若干順番は異なりますが、ほぼ同じ構成です。変りばえのしない日常を暗示していると考えられます。

 また、面接のシーケンスとポルノ映画のシーケンスも同じ構成になっています。共通を挙げると、まずドアを開いて入室します。そして、相手と会話するが怒らせてしまいます。取り繕って、無難にものごと(面接の合格と買い物)が進みます。真上からのショットで契約(書類の受け渡しと商品の購入)が描かれます。面接のシーケンスでは、部屋から退室し場面が変わる際に、配車係の男性のショットが挿入されます。ポルノ映画のシーケンスでは、映写機のショットが挿入されます。トラヴィスは、人との対話する際には、同じことを繰り返し続けているということを暗示するために演出されていると考えられます。 


次回に続く
 


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