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保護者も子も下着をどう選んでる?

このコラムはNPO法人わっかの月次報告書で連載しているものです。

FemTechとは

今回は「親の就労」とテーマ予告していましたが、ヒルズで行われたFemtechFes! 2021に触発されてテーマを変えてみました。フェムテックとは、「FemTech(フェムテック)とは、Female(女性)とTechnology(テクノロジー)をかけあわせた造語。女性が抱える健康の課題をテクノロジーで解決できる商品(製品)やサービスのこと」*1です。

 数年前からナプキンを使用しない生理用ショーツ、セルフプレジャー用のプロダクトが普及し始めていますが、今回の会場では自宅で人工授精ができるキットがあったり、ブラジャーに装着できる搾乳機があったり(アプリで前回の搾乳量や時間なども自動記録)と、膣に挿入する尿漏れ対策キットがあったりと、生理関係やセルフプレジャー以外にもかなり「女性の健康と生活の向上」が進んできた印象です。

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そして、それらすべてがIoTで連動させており、データや動作は手元のスマートフォンから行われていました。ただし、こうしたプロダクトはだれもが手に入るわけではなく、まだまだアクセスの困難さは残っています。普及し始めた生理用の吸水ショーツもGUの1,490円台が最安ですが、だいたいは1枚4000円前後~となっています。中々手が出ないですよね。

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自分にとって適切な下着を選択している?

そうしたプロダクトの前提となるものが「下着」であったりしますが、みなさんは自分にとって適切な下着を選択しているでしょうか。高橋らが女子大生・大学院生を被験者とした(平均年齢21.7歳)を対象とした調査*2では、「ブラジャーの平均(購入)価格は、1,887円(最低500円、最高5000円)であった」とのことであり、10倍近い差が出ています。

ちなみに、周囲にリサーチしたところ、男性は3枚1,000円程度が多いようで、身体性による経済的負担の男女差が如実に表れます。この点は男女の収入格差だけでなく、負担せざるを得ない経済格差に関しても同時に論じられるべきことでしょう。

適切なサイズを着用しているか

そして、なにより適切なサイズを着用しているかです。その点は「バストを採寸する頻度は、ブラジャーの購入時18.9%、ほとんど測らない56.6%、計ったことがない20.8%、その他3.7%」「試着する頻度は必ず試着する11.3%、時々試着する26.4%、あまり試着しない24.5%、試着したことがいない37.7%」で、ほとんど測らない、計ったことがない層は77.4%、あまり試着しない・したことがいない層は62.2%で、あまり関心を持っていないことが本調査では明らかにされています。

ただし、同調査ではブラジャーのカップサイズ、アンダーバストの身体との不一致も指摘されていることから、過去に試着や採寸をしたけれども合わなかったことから、現在は試着も採寸もしないという消極的理由は否定できません。同調査では「38%が販売員の資格を持つ者が選定したサイズと一致」とのことでしたが、これは62%の被験者が一致していなかったとも言えます。

採寸と試着、正確な情報を

友人のフィッターや下着ブランドを展開している知人がいますが、下着の話をすると数か月でもサイズ変化をするし、年齢によっても変化する、商品によっても付け心地が異なるので、必ず採寸と試着はしてほしいと話します。ただし、若年者だけでなく普段から身体のサイズを採寸する機会に恵まれていないのも事実で身体サイズを自分で把握していないことも課題かもしれません。

また、育乳ブラも近年でできていますが、横井らの調査*3によると「育乳ブラには、裸体での人体寸法計測値に現れるような豊胸を実現する効果はない」「着用したときのみ、見た目の豊胸を実現する効果はあると推察される」としており、SNSなどのPR広告で安易に選ぶのではなく、正しい情報を正しく手に入れるリテラシーも必要とされるでしょう。

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親に左右されやすい子どもはどうか

では、大学生や大学院生よりも金銭面や機会面、情報面で自分の意志で選択・決定する機会が少なく、親に左右されやすい子どもはどうでしょうか。二次性徴期を念頭に置くと、成長がある程度終わった大学生世代よりもその必要性は高いはずです。

親が40代、子が10代~20代と仮定すると、その下着選択にはおのずと差異が出てくるのではないかと思いますです。そこで鈴木らの論考*4をひも解くと「もっとも選択されたのは「かわいい」であり」と大きな差はなかったが、誰の目が気になるかなどは年代によって大きな差がみられている。特に下着選択時の「かわいい」を重要視するのは18-24歳で70.9%、24-19歳で54.4%であるのに対して、親世代と推察できる30-39歳世代では44.7%、40-49歳世代では24.8%と変化する。「シンプル」は逆に年齢が上がるほどに、選択時の選択肢にはいることが調査結果から明らかされています。

また、お気に入りの下着を着用したいと思う場面でも顕著な差が表れており、18-34歳では62.6%、24-29歳では61.2%が「好きな人に会うとき」と選択していますが、30-39歳では51.9%、40-49歳では32.5%、50-59歳では18.4%と変化しています。

もちろん、ライフスタイルの変化も大きな変数だと言えますが、これだけ各種の数値が異なれば、親が子に購入する際にも影響が出るのではないでしょうか。

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親子関係に着目すると

そうした前提を元に親子関係に着目してみましょう。教育家庭新聞によると親子で下着に関する話をするのは30%に留まっています。ただし、子どもが下着を買いに行く相手は「親」が圧倒的です。そこで、庄らは*5中学生、高校生、大学生の下着素材や装着理由の認識に違いがあり、小中学校における早期の下着教材の必要性がある先行研究を下敷きとして、母子関係に着目し、その意識や行動実態を明らかにする調査を行っています。

 調査結果では、そもそも乳房の発達に関しての母子の知識不足があげられ、各段階で子の89-94%が「知らない」と回答し、母の46-64.5%が体験してきた過程であるが「知らない」と回答しており教育機会の欠如を示唆する内容となりました。

母子保健の分野では乳幼児期に関しては手厚く保健師が関わったり、病院が関わったりするが、小学生以降となるとそうした機会も減り、必然的に情報へとアクセスする機会も減るのかもしれない。

学校では教えて欲しくない?

ただし「ブラジャーについて学校で教えること」については子の46%、母の79.5%が教えてほしいと回答している他方で、子の53.9%が教えてほしくない・あまり教えてほしくないと回答しており「自分のはずかしいことが知られてしまうから」「家の人と相談したほうが安心するから」「家で実践したほうがいいと思うから」と自由記述でもあげられていることから、下着という極めて私的な部分に踏み込むことについては、学校も家庭も慎重になることは必要であると思います。

単純に、あんまり知られたくないですよね。前述の通り値段の差もあり、経済的余裕の有無にも直結しますし。

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あるべき像との乖離とこれから

 若年者が自身の身体に対してコンプレックスや「あるべき像」を持ち瘦身に取り組むことは保健分野でも課題として挙げられてきましたが、その前提として自身の身体に関して正しい知識と実践が行われていないことが明らかになったと思います。

特に試着や採寸は文献には現れなかったものの、身体侵襲が伴うだけに心的ハードルが極めて高いものであり、購入の際にもフィッティングへの回避行動へとつながるものではないでしょうか。そこで高校生世代にとって購入相手の一番の同行者である「親」が知識を持っていたり、恥ずかしくないということを伝えていくことが求められているのではないでしょうか。

ただし、そこにも年齢によって必要な機能や趣向が異なることを前提に、決して押し付けではなく、子どもの着用したい下着を選択することもボディイメージを向上させることにつながるのではないでしょうか。もちろん、発達段階によっての着用する下着種類は異なり、その点は留意しつつとなりますが。

そのためには環境が必要

そうした「選択をする」ということは、前提として「選択できる環境」と「知識」が必要になります。豊胸ブラの項目でも触れましたが、企業の広告が必ずしも正しいわけではありませんから、ここでは母子保健の観点で世代別に学校教育で取り組んでいくことも一つの解決策になるのかもしれません。庄らの調査で出てきた「自分のはずかしいことが知られてしまうから」教えてほしくないという声も大切にしながら。

また、今回ひも解いた調査では下着の選択や母子の知識といった部分に着目しましたが、例えば身体性が女性で、自身の乳房に対して忌避する人や、身体性が男性で女性への変化を望む人などへの「親の対応」に関しては調査資料不足であり、相続して取り組んでみたい課題です。

【参考文献】
※1 ideas for good(https://ideasforgood.jp/glossary/femtech/)2021,11,12取得
※2 高橋 美登梨, 佐藤 百恵, 川端 博子(2020) 「若年女性におけるブラジャーのサイズ選択の実態」日本家政学会誌/71巻6号
※3 横井 孝志, 春口 佳苗 (2017)「“育乳ブラ”の長期装着に豊胸効果はあるか?」人間工学/53巻Supplement1 号
※4 鈴木 公啓, 菅原 健介, 完甘 直隆, 五藤 睦子 (2010)「見えない衣服―下着―についての関心の実態とその背景にある心理的効用―女性の下着に対する‘‘こだわり’’の観点から―」繊維製品消費科学/51巻2号
※5 庄 莉莉, 村上 かおり, 鈴木 明子(2020) 「ブラジャー装着に関わる意識および行動の母娘の関係性」日本家政学会誌/71巻4号


現場から現代社会を思考する/コミュニティソーシャルワーカー(社会福祉士|精神保健福祉士)/地域の組織づくりや再生が生業/実践地域:東京-岐阜/領域:地方自治|政治|若者|子ども|虐待|地域福祉|生活困窮|学校|LGBTQ