眠れない夜に

昼の賑わいから離れて、夜にひとりでいる時間。しんとした時間は深く自分を見つめる時間でもある。ただ、それは時につらくなる時間でもある。そして、寂しい時間でもある。

ここ2週間、深夜の時間帯に「夜眠れない人が立ち寄って、ぽそぽそ話して立ち去る部屋」というオンラインルームを開いている。毎日23時から翌3時頃まで開けているこの部屋には、1日あたり5~9名が立ち寄ってくれ、この間だけで70人近い人とお話をした。

年齢層も性別もさまざまだし、そこで聞かせてくれることも多岐にわたる。例えば、生きかたに迷った学生や、日中は専門職として生活をしていても、ふっと息を抜きたくなった人、どうもうまく伝えられないけれど、なんとなく話したい人も来たりする。時には社会的に避難されると思われることを吐き出しにくる人もいる。本当にさまざまな立場の人が扉をトントンとたたき、やってきて、ぽそぽそ話して去っていく。

私はたちよった人の声に耳を傾け、どんな価値観の話も内容でも、ただ聞くだけ。人は、誰かに寄りかかりたいときもある。誰にも話せないことを吐き出したいときもある。そんな時に立ち寄ってくれたらいい。リアルの場所も大切だけれど、そんな場所がオンライン上に存在してもいいと思っている。

そんなオンライン上の場所は街のBARのようなものなのかもしれない。バーテンダーがいて、立ち寄った人々の思いや音に耳を傾けて、好みのカクテルを提供する。そして、明日も少しだけ生きてみようかと思い、立ち去っていく場所。

どうして、こうしたオンラインサロンを開設してみようとしたのか、少しだけ話を遡らせると、COVID-19以降に徐々にではあるけれど、広がっていた「分断」が可視化されるようになってきたと感じている。近くは、大学生の5人に1人が生理用品を買うことの困難さを経験していたり(生理用品の軽減税率適用を求める『#みんなの生理』が2021.3.4に発表)、若年女性の自殺率上昇、遺児の中には大学進学をあきらめる高校生や中退を考える大学生の増加(あしなが育英会調べ2020.11.30NHK報道)、生活困窮状態におちいり、ここ数か月で生活保護に陥る世帯などだけでなく、実際に家出をする若者に出会うことが増えてきた。そうしたことの一手として、ある中核市で月に一回「夜の子どもの居場所」をスタートさせた。ただ、それだけでは隙間ができてしまうのではないかとの思いで、オンラインの部屋を開けている。

私がかつて「今回、生活困窮やDV以外にも岩場の陰に隠れていた問題が可視化されるはずです」(2020年4月26日岐阜新聞掲載)と指摘させていただいたが、この社会は見えないことにされていることが多すぎたと思っている。可視化されはじめた今、絆創膏を貼る対処療法を始めたばかりではあるものの、そうしたことの延長線上にしか根治療法は存在しない。だからこそ、今はひとつひとつの声を聴き、向き合い積み上げていくことが必要なのではないかと思い、もうしばらく踏ん張ってみたいと思う。

現場から現代社会を思考する/コミュニティソーシャルワーカー(社会福祉士|精神保健福祉士)/地域の組織づくりや再生が生業/実践地域:東京-岐阜/領域:地方自治|政治|若者|子ども|虐待|地域福祉|生活困窮|学校|LGBTQ