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怖い夢をみた、私と彼の話。

大きな黒い赤い首輪をした犬が三頭繋がれていた。間には何の応答もしない人がそれぞれ三人立たされていた。私はその犬を一頭ずつ順番に殴っていった。

目のところだけを執拗に繰り返し。黒い犬たちは何も言わない。灰色の大きな石を持ち上げて落としたりもした。黒い犬たちはやはり騒ぎもしない。声帯がないのか鳴き声すらあげない。咬みもしないのは麻酔か何かなのだろうか。眼球が濁っていく。それでも黒い犬たちは焦点の合わない目でまっすぐと私の方向をみる。

あいつはもう見えていないだろう、こいつはまだ見えるか。あと一回潰そう。

そこまで思ったところで私はとび起きた。夢であることを確認し、我が家の黒くて小さな犬を抱きしめに行った。久々の悪夢だった。

「何も文句を言わせないように、俺は圧倒的に勝たなきゃいけない。何でもできた方がいいし、ここは出来ないとかいうのをつぶしていく時間だと思っている」

その時はそう、私はとても鈍感で適当なところがあるから、専門性の高め方とか出来ないところをつぶして他と被らない状態にするのは私もやるとか色々共感していた。ただ人と違う状態にしたいんじゃなくて、超えたいということはわかった。そして、「すげー」を連発して、あまつさえ「がんばれ」なんて言ってしまったと思う。愚かな語彙力。

それから私の悩みの話をした。自分の弱いところを一番最初に曝してきて、それを受け止められるのか試されているような気持ちというのが私は得意ではないという話。頭が受け止められないことを拒否してしまうのかそういう人と会うと私はぐったり疲れてしまう。私は最近は笑いながら相槌を打って回避しているんだけれど、その人は俺だったら無理だって言うなと言っていた。まあそういう歯に衣着せぬ物言いの人なのだ。私以上に。

帰り道、雨の中でふっと「自分だけでいたら休まないんじゃないかと思って」と私が言い出しことをきっかけに、彼は三十歳までの自分のパーソナルなところの目標を話し出した。さぼるとか手を抜くとかがない私以上の完璧主義。私がいなかったら仕事のことしかしない休日になるのを見越して、私はいつも会いに行っている。人がいることで強制的に別のことをさせるという意図があるのだ。そのくせ私は何もしないけど。彼から見る私が「休んで」と「身体を大事に」しか言わない語彙力の少ない女だとしても全然かまわない。

駅の見える手前の曲がり角にきた。彼の背が私の前を追い越していく。その時にやっと何で彼が圧倒的な勝利を納めなくてはいけないのか、私の中で分かってしまったのだ。身体の造形を人一倍気にするくせにその優先順位を変えてまでしたいこと、それが「男性」の凌駕なのだと。彼は「男の子」ではなかったから「男性」になってそれを越えていくのだと、私の中でつながってしまった。

がむしゃらに這い出て、努力していく姿は私も尊敬している。同じような症例の人は低学歴だったり低収入だったりしていて、それらの要因として身体の造形や表面的なことへの悩みに終始してしまうことがあげられて、そのせいで次の段階に行けないということは授業とか彼由来じゃない知識としてある。彼曰くだからそういったコミュニティのコンプレックスに付き合っている暇はないと。そういっていたのが数年も前になる。

努力する姿を止めたいんじゃなくて、あまりにも孤高になっていくのを止めたいというのが近い。

煙草だって何度か禁煙しているくせにやめていないし、お酒も飲むし、量は食べないけれど、体にいいことは全然していない。そうするといつか身体から駄目になってしまうんじゃないかと思って、私がちょっと怖い。

「またね」

暗闇に背を向けて私達は振り返りもしない。

別れた瞬間に気がついて、少し怖くて、いい大人が駅のベンチで泣いて帰った。私も置いていかれるんじゃないかって思った。いつか壊れてしまうんじゃないかって思った。

幼い私の精度の低い勘じゃない。対人職で得た勘も経験も私の警鐘を鳴らしている。

そうしたら怖い夢をを見たのだ。

大きな黒い犬たちが私のせいで潰れていく夢。潰しているのは私なのに、私の意思ではないような違和感。

彼が懸命になるのは何一つ悪いことじゃない、でもそれでも私は今少しだけ怖い。

※個人の特定を防ぐために曖昧な表現になっています。場合によっては加筆修正非公開などを行います。

グミを食べながら書いています。書くことを続けるためのグミ代に使わせていただきます。