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ベアードビールの工場見学に行った話

今年はフレッシュホップフェストの執筆が忙しかった。こんなに書いたのは初めてだ。学ぶことだらけだった。
季節が巡ってしまったが、夏にベアードビールさんの工場見学へ行った話をようやくまとめた。

ブログやレポートではなく、あくまで「いちクリエイティブなnote」としてのエントリーを今回も目指したいので結論から申し上げると、
醸造所の見学は積極的に行った方が良い。
ビールに詳しくなっても製造工程って意外と知らないままだったり…する、し、
何よりブルワリー側の方がとても喜んで無料で迎えてくれるものだから。
何箇所か見るとタンクの醸造量やホップの保存方法などが比較できてより見えてくるものがあるかと。

それは暑い夏の日の見学だった


夏だったとはいえ、その時期は外出は控えるようにお達しが出ていた。
なので念のため明記するが、この見学は仕事の一環であり個人の享楽ではなく、ベアードさんとの関係値があり特別に許可をいただいたものであった。
その頃よりすでに前から、一般向けの開放は現在されていないのであしからず。

残念ながらブルワリーツアーは現在休止中です。
ベアードビールHP

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というわけで静岡。降りたことはあるもののあまり時間をかけて回ったりしたことはない土地。
かの有名な三島神社にも立ち寄った。

関東に比べて建物が低く、駅前であってもコンビニが全然ないのが印象的だった。

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駅の看板にもベアード。会社としてはクラフトビールでも大手だけど、
新幹線から地元の鉄道を乗り継いださらにバスで行くような立地にあり、
やはり生産量が大きな会社は土地面積が必要なんだなと思い知らされる場面でもある。

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最寄りのバス停を降りると案内板が現れる。ここからさらに徒歩10分くらい。ややもすると辺りにビール工場なんてありそうにないため若干不安になるが、大丈夫。

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工場の手前に自前のホップ畑が現れると、テンションはうなぎ上り。
こちらのホップももちろん、この辺りの梅や夏みかんこそが実際にベアードビールが副原料で使用している原料。
そう思うとこの時点でだいぶ感動がある。

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ででん!
今更ながら告白するが、実は自分は工場見学はあまり行った経験がなく、
日本だと生麦にあるキリンビールの工場と、ベルギーにあるランツヘール醸造所しかお恥ずかしいのだけど入ったことがない。
よって正直あまり規模感がわかっていない。。
そんな素人でも思わず「デカッ!」と口にするくらい、修繕寺の醸造所は大きかった。
写真からは伝わらないがこの日は真夏日だったためこの時点ですでに汗だく。笑
その日報道で浜松は35℃だとか、倒れる人が出たとかって話が飛び交った記憶がある笑

いざ工場スペースへ


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工場に着くとすぐエレベーターがあり、まずは皆受付の3階へ向かうこととなる。
3階は流石に涼しい。天国かここは…!

工場見学の旨を伝えると、ベアードのドンもとい代表夫婦のブライアンさんとさゆりさんらがいらっしゃった。
ブライアンさんは業界では変わり者と噂されているようだが、流行りのNEIPAとかじゃなく基本スタイルで変わらぬ美味しさを作り続けたいというお話からとても真摯な方なんだなと感じたし、
それを静かに聞いているさゆりさんからは懐の広さを感じた。

これが日本のクラフトビールを黎明期から支え続けてきた会社の代表か…!

長らく醸造に携わっているがゆえに、飲み手である自分とはまた違ったビール愛をひしと感じた。

さて談笑もそこそこに、いよいよ工場の方へ移動。
1、2階部分が工場という構造となっており、3階の扉から降りながら中の見学に参加できる。
「熱気は上の階にこもるから、暑さは覚悟してくださいね」と釘を刺されていたが、夏のベアード工場はマジで暑い。笑
夏場に行きたい人はタオルとか冷却ジェルとか持っていった方が良いです。笑

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タンクのデカさはもちろんだけど、何に驚いたって、どの場所も撮影NGという点。
ランツヘールでさえこっちは撮っちゃダメってところがあったのに。
規模についてはどうしても表現の仕方がわからないので、とにかく目についたところからパシャパシャ撮った写真で何とか参考にしてください。笑

ホップは凍えるくらい寒い冷凍室で全て保管しており、
大量のモルトの袋の近くに氷砂糖などの原料も置いてあり、ここでビールが本当に作られているんだなぁとしみじみ感じ入った。
本当はもうちょっと機械的な解説をできれば良いのだけど、そこの知識は今の僕にはないので…ごめんなさい。

ただ2つ伝えたいことがあって、

1.サワー
2.フロアモルティング

ここは絶対に広く知ってもらいたいと思った点。

1.サワービールは新興醸造所がトライするスタイルとして最近もてはやされているが、醸造所としてはかなりリスキーなスタイルの一つでもある。
何故なら、乳酸菌は菌として繁殖力が強い部類に入るので、樽や器具の汚染が容易に起こるからだ。
下手をすると工場中に乳酸菌が付着したがために工場自体を洗浄対応、仕込んでいたビールを全廃棄、なんてのも冗談ではなく本当にある話。
そこで醸造所はケトルサワーというものを生み出した。
簡単に言えばサワー仕込み専用のタンクだけで仕込みを完結させて、他に菌が混入するリスク自体を無くしてしまおう、というやり方。

→しかしベアードとは見たところサワーケトルが見当たらなかったので聞いてみた。すると…
「うちは樽を洗浄している」との回答。

高い洗浄技術を持っているためサワー専用タンクを作らずに回せている、ということがわかったのだ。

これはすごいことである。ケトルサワーのデメリットは「ヒットするかわからない商品のために大事なタンクを一つ占有させてしまう」ことであるわけだが、
確かに完全に菌を除去できるのであれば他のビールも仕込みたいタイミングでスケジュールを組むことができる。故に経営もしやすい。
これは徹底した洗浄技術と自信がないと出来ないはずだ。すごいぞ、ベアード。


2.これは今回周年ビールのために特別に行っていたことかもしれないが、フロアモルティングしたモルトをビールに使用していた。
これは元々ウィスキーの製造で行う過程なので自分は詳しくなかったのだが、床に広げたモルトを時々混ぜながら発芽させる手法のこと。
(かの有名なウィスキー、ボウモアでは現在も用いられているらしい)
麦芽を発芽させるのはビールでももちろん必須の工程なのだが、それはタンクの中で通常行うわけだ。
それをわざわざこだわりのために床に撒いて発芽させる方法を取った。
フロアモルティングは手がかかり均一性に欠けるが、個性を伸ばすことが出来るメリットがある。
ビールに限らず広い視野を持たなければ導入されることもなかったであろう。やるな、ベアード!

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クラフトビールが好きな人は多いだろうし、
ビンに毎日触ってるから構造に詳しい、なんて豪語する人もいるだろう。
しかしそのビン詰めがどんな風に行われているか、なんて想像してみたことはあるだろうか?
それが手が届く距離で見れる。
ラベル貼りとかね。
「あ、大手と違ってここは手作業なんだ」
なんて感想を抱くことが出来るのも、工場見学の魅力。
行けるなら行きましょ。行かない理由がない!

見学後、タップルームで実飲のとき

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3階のタップルームへ戻ってきた。
先ほど説明したサワー、氷砂糖、梅を使用した「日本物語エール」、

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フロアモルトを使用した「BB20 グリットエール」が繋がっていた。

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「日本物語エール」は日本の居酒屋文化に倣い梅サワーをイメージしたビールを作るというテーマで、
工場の近くで採れた梅を採用。
氷砂糖は意外な原料に聞こえるかもしれないが、元々ベルギーのトラピストビールにはよく使われており、上白糖とは発行比率が異なるため残糖の調整に役立つ材料。
梅サワーっぽくもあるが酸味の角は取れておりさっぱりして大変軽快なエールだった。

「グリットエール」はベアード20周年を記念した限定品で、スペックとしては度数7%のハイブリッドビール。
華やかなアロマがあるのに終わりのキレが大変よく、初めてIPAを飲んだ時の感動を思い起こさせるようなとても良いビールだった。
ダブルIPAを乱発させたくないブライアンらしい、ゴールデンエールをベースにした造りも興味深い。
叶うならもう一度飲みたいね!

とまぁ、飲んだら思わず誰かに話したくなるような、素敵なビールを作っていた。
もちろん定番品も良いけど、やろうと思えばこういうのも出来るんだぜっていうメッセージな訳である。
流行り廃りを追いかける醸造所が多い中(それも時代だったり新参だったりすると仕方がない面もあるが)、ブームばかりに迎合しない姿勢に生き残る秘訣を見た。

ビール県静岡

他にも施設のすごい特徴を聞いたのだが、マニアックすぎる内容なのでここでは割愛。
工場見学した後で実際に作られたビールを飲むと、味の端々のこだわりを拾うことができ、よりそのビールの価値を確かめることが出来るようになる。
テイスティングに自信がない人ほど、工場見学をオススメする。
魅力が伝わったなら幸いだ。

最後に、現地入りして感動したのは、静岡のクラフトビールが到着駅から終始静岡産ビールが並んでいて選択出来る自由があったこと。

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関東住まいの自分だと御殿場高原ビールを入手するのは意識して探さないと不可能なのだが、街中のビール売り場に行けばごろごろ出会える。
もちろん他の銘柄も。
東京駅に東京のクラフトビールが並んでいるかと考えたら、そんなことは全然無い。あっても2銘柄くらいだし、駅前の売店で置いてあるのはやはり大手だ。
「クラフトビール」の性質を考えると、これが実践できているなんて素晴らしい土地だなと思った。まるでポートランドに来たみたいじゃないか。

激戦区になるにも理由がある、とわかった。

今は遠方に出かけるのに向いている時期とは言えないが、
事態が収束したら是非どちらかの工場見学に参加されることをお勧めしたい。
#ビールで明日を幸せに  !

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