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【ほんのりBL】となりの席でとなりの家の事務員くん



「おい」


「……あ……ん……?」


「おい」


「もぉ……、おき……」


「……おい!」


「痛……っ? な、何っ?」


丸めた書類で、隣りのデスクに沈没した後頭部を叩いたら、思いの外軽快に「ポコッ」と音が鳴った。

ガバッと顔を上げた男は、その口からだらしなくヨダレを垂らしている。


「何、じゃねーよ。古賀てめぇ、いつまで学生気分でいやがる」


俺は、瞼を重そうに持ち上げる総務部の中堅社員、古賀の頭をもう一度叩いた。

古賀はヘラッと笑う。


「一応、社内に誰もいない時しか寝てないよ? 今日は内勤、きょーちゃんだけだし」


古賀はまだ夢見心地なのか、遠い昔に封じたはずの懐かしい呼び名で俺を呼ぶ。


「会社でその名前で呼ぶなアホ」

「ははは。恥ずかしがってる。きょーちゃんかわい……、ふぁ……」


「気持ちわりぃこと言ってんじゃねぇつか寝んなつってんだろ」


古賀公司と、俺、柏木京介は、実家は隣り同士。
田舎町で育ち、勤めまで同じという究極の腐れ縁だ。

地元を離れることなく進学したら、数奇にも就職先まで同じになってしまった。


地元企業の小さな会社。
形ばかり部門は異なるが、雑然とした社内で席は隣り同士だ。


そんな幼馴染が最近おかしい。


否。


むしろ、おかしいと思ってしまう自分がいちばん問題だ。


隣りの席にいるのは、ただの二十七にもなる男なのに。

「お願い……、きょ……ちゃん。も……ちょっと……」

 ——寝かせて……。

声にならない声が吐息のように伝わり、胸がざわつく。


色素の薄い肌、ふわふわの猫っ毛。

そして、声。


誰もいない社内で無防備に眠りを貪る男の扱いに戸惑う自分がいる。


「お前、変……」

「えぇっ? いきなり何それ、ひどい!」


俺は席を立って給湯室へ向かう。
うん、コーヒーでも飲んで落ち着こう。


「きょーちゃん、コーヒー、俺もほしいなぁ」


脳天気な声は無言の背中でシャットアウトしつつ、茶渋が染み付いたマグカップをふたつ手にする。


「きょーちゃん、俺もコーヒー!」


「うるせぇわ!」



- end -


※本作はエブリスタにも掲載しています。



エブリスタで長編連載中です

巡る明日に君がいない
http://r.estar.jp/.pc/_novel_view?w=23868932


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