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#0207【対話で深める温故知新(李衛公問対、中国古典兵法書)】

1日1分歴史小話メールマガジン発行人の李です。

今週は中国古典兵法書関連を取り上げてきましたが、最終回は『李衛公問対』を紹介します。

(前々回:No.205【六千数百字の組織経営エッセンス(孫子)】)

(前回:No.206【立身出世の体験談(呉子、中国古典兵法書)】)

前回、前々回で取り上げた孫子、呉子は聞いたことがあるという方も、この『李衛公問対』となると如何でしょうか。ほとんどの方が聞いたことのない書物だと思います。

中国古典兵法書には、武経七書(ぶきょうしちしょ)と呼ばれる七大書物があります。筆頭は『孫子』、次点が『呉子』であるところは衆目の一致するところですが、それ以外の五書『尉繚子(うつりょうし)』『六韜(りくとう)』『三略』『司馬法』そして『李衛公問対』 については並列的なランク付けがされています。

この中で『李衛公問対』だけが紀元後の書物であり、それ以外の六書は全て紀元前のものです。『李衛公問対』の成立は7世紀の初め頃で、中国が唐によって再統一された後のことです。

この中国再統一にあたって、名君の誉れ高い李世民(唐の二代皇帝太宗)が優秀な軍事総司令官として名を馳せました。

彼の部下に李靖(りせい、李世民と血縁なし)という人物がおり、彼は天下統一の功績として李衛公(りえいこう)と尊称を受けていました。

この唐の太宗(李世民)と李衛公(李靖)の軍事談義が書物としてまとまったものが『李衛公問対』なのです。「問対」とは「問答」のことです。

この二人が話したものを纏めたとされていますが、偽書説もありその場合の成立は10世紀頃と目されています。ただし、偽書だったとしても内容の普遍性には影響はありません。

今回『李衛公問対』を取り上げた理由は、この問答集は、過去の六書について引用しながら問答しているシーンが多いからです。

すなわち「孫子ではこう言っているがどう思う?」や「呉子のやり方は現代(唐の時代)にはどういった使い方ができるだろうか」などを問答しているのです。

また、二人の問答集という体裁をとっているため、言葉がイキイキとしており、読み物としても面白さがあります。中国の兵法書だけでなく過去の戦争・政治状況についても触れながら問答を進めています。

そのため、中国の歴史にも詳しくなることができるという一挙両得な面もこの書物の魅力だと思っています。

以下、『李衛公問対』からの一部引用です。

太宗(李世民)が尋ねた。
「孫子は、敵のやる気を削ぐことについて『人間の気分は朝は充実、昼はだれ気味、夕方は休息を求めるため、やる気も状況によって変化する。戦上手はこのやる気の変化を見定めてやる気が充実している敵は避け、だらけた敵を討つ』といっているが、どう思うか」

李靖(李衛公)は答えた。
「生命をもった人間が、戦いのときに命すら投げ出すのはなぜでしょうか。これは精神がそうさせるのです。ですので、まず部下の状態を見極めて、勝つ精神を奮い立たせたうえで敵と戦うことが必要です。

また、呉子では戦争には四つの要があると言っています。その中で精神的な面をその筆頭においています。

孫子のいう『朝は~昼は~』云々は必ずしも時間的なことではなく、たとえです。状況と精神の働きとの関係を論じているのです。

表面的に孫子の言葉を解釈しても敵の思うつぼにはまってしまいます。」

表面的な言葉ではなく、その真意は何か。どんなことにおいても気をつけ、心を配りたいと思います。

以上、今週の歴史小話でした!

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