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#0111【上善、水の如し。無為自然を説いた神仙思想(老子)】

1日1分歴史小話メールマガジン発行人の李です。

中国古典思想の最後は、老子(ろうし)を取り上げます。No.109が孟子で儒教思想でした。No.110が韓非子で法家思想。この老子は道教、道家思想(老荘思想)の根幹を成す人物です。

老子も前二つと同じく、人物名としての意味と書物名としての意味があり、本名を中国最古の歴史書『史記』では「李耳(りじ)」と伝えています。以降、個人を表すときには「李耳」、書物を表すときには「老子」とします。

史記には、李耳が道徳について5000字あまりを記した書物を残したと書かれており、現在残っている老子の字数とおおよそ合致します。また、同じく史記に李耳と孔子(儒教の根幹を成す人物)が「礼」について問答したと記されています。ただ李耳については「実在性」「生きた年代」「本当に老子を書き残したのか」といった点について論争があり、確定が出来ていません。

仙人的な世捨て人的な生活を営んでいたとの推測もあり、詳しいことは分かっていないのです。

個人の実在性については異論・異説がありますが、現代に通じる老子という約5000字の書物が紀元前200年頃には既に存在していたことは間違いありません。

それでは、老子では何が語られているのか。老子は別名『道徳経』とも呼ばれており、「道(タオ)」について語っています。約5000字の中で「道」の字が76回、「徳」の字は44回出ています。

老子の中の「道」について語っている箇所を、一か所抜粋してご紹介します。

「道は常に為す無くして、しかも為さざるは無し」
⇒一見「道」は何事にも影響していないようだが、実は全ての物事に「道」の働きが及んでいるのである。

ここから「道」が全てのものをあらしめる原理であり、それに自然に身を任せれば自ずから世の中はうまくいくといった思想につながります。この「無為自然(むいしぜん)」をベースとする老子の思想は、一種の無政府主義的な思想に通じるものがあります。

時の王朝・政府によって弾圧を受けることもありましたが、民間信仰として残り続け、現在も中華世界のみならず日本にも大きな影響を与えています。

たとえば、「無為自然」の考えだけでなく、
「上善、水の如し(最上の善とは水のように無味でいやらしさのないものである)」や
「功遂げ身を退くは、天の道なり(人間は功績を達成したのであれば、その地位から退くことが正しい行いであって引き際が肝心である)」
といった考えに共鳴する方も多いと思います。

老子は短いながらも奥深いエッセンスが凝縮されたものです。ご興味あれば参考文献に挙げた書物などを手に取って頂くことをオススメします。
さて、今週の古代中国思想特集の参考文献の中で以下二冊を挙げています。
 貝塚茂樹 著『韓非』
 小川環樹 訳注『老子』
著者のお二人は日本の中国東洋学者として多大な貢献をされており、数々の著作もあります。

ちなみに茂樹が次男で入り婿して姓が変わっています。環樹は四男です。長男の芳樹は冶金学者。五男の滋樹(ますき)は第二次世界大戦で戦病死しています。

それでは、三男は誰でしょうか。

答えは、日本人初のノーベル賞受賞学者である湯川秀樹です。秀樹も茂樹と同じく妻の実家に婿養子に入っているため姓が小川ではなくなっています。とても優秀な兄弟たちだったのです。

僕は遺伝子よりも、やはり勉学には「孟母三遷」の教えのとおり環境が重要だと思っています。身近に優秀な人物がいたことが大きく作用したと考えています。

最後に少し脱線してしまいましたが、以上、今週の歴史小話でした!

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発行人:李東潤(りとんゆん)
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https://note.mu/1minute_history/m/m814f305c3ae2
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