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唐戯曲を読む!第5回 『ジャガーの眼』(特別ゲスト:タニノクロウ)レポート

唐戯曲を読む!第5回
『ジャガーの眼』(特別ゲスト:タニノクロウ[劇作家・演出家・庭劇団ペニノ主宰])
4月11日 19:30-21:30

こちらは資料として、当日の講義のノートを簡単に書き起こしたものです。
会の雰囲気を伝えるものとしてお楽しみ頂ければ幸いです。

【タニノさん 次回公演情報】
タニノクロウさん×KAAT
演劇界の鬼才、タニノクロウが初めてKAATに書き下ろす最新作!
『虹む街』
2021年6/6-20@KAAT 中スタジオ
https://www.kaat.jp/d/nijimumachi

KAAT中スタジオにセットを建て込み、5月16日まで稽古風景がいつでもみられます。
https://www.kaat.jp/news_detail?id=1694

*話す予定のこと
唐十郎を好きになった経緯。
唐十郎さんと近いようで遠い人。

「最初、思いつく限りだらだら喋ります。」

司会:日比野啓さん(演劇研究者 成蹊大学教授)

【講義内容 板書】

(日比野さんより YouTubeに上がっている『ジャガーの眼』資料映像について)
六平直政と金守珍さんが出演している、貴重な映像。
ただ俳優のアップ、クロースアップを多用し、テレビ的な映像ではある。
(舞台全体、背景がなかなかみられないのが残念ではある)

前回(第4回)の特別ゲストは唐ゼミ☆の中野敦之さん(第1回は俳優の赤松由美さん)。
実は当初、もう一人の特別ゲストの候補は平田オリザさんだった。
かつて日比野さんがインタビューした折、「唐十郎さんの戯曲をお好きですか?」という質問に、「唐十郎さんの戯曲を嫌いな人なんているんですか?」と、虚を突かれたように驚かれていた。
あの平田オリザさんをして、その質問にキョドっていた姿が大変興味深かった。

(タニノさん)
タニノさんはここ最近調子が悪かった。
5日前にのどが痛く、PCR検査を受けた。
その後肺に違和感があり、木下工務店のPCR検査を受けたり。
いずれも陰性だったものの、体の不調がすごい。
咳が出るかもしれませんが…。

嫌な世の中ですが、どうお過ごしですか。

今こんな時に唐十郎さんが何をお考えなのか、聞けるものなら聞いてみたい。
松本雄吉さんとか、そういう怪物的な人たちが(もしご存命だったとして、)この時期をどう過ごされたのだろうかということがふと気になったりする。

ZOOMは飲み会でしか使ったことがないので。。。
「ゆるいかんじでやってくださいますよう。」とのことですが、
去年の4月か5月に、静岡のイベントで、宮城聰さんに招かれてオンラインの対談をやった。
しかし当時オンラインのイベントというのをよくわかっていなかったのでべろべろになってしまって、話した内容もろくに覚えていないほどであり、身近な人からたいへん怒られてしまった。
今となってはお酒もあまり飲まなくなった。酒量も減った。

オンラインの諸々は、ムズいです。
しかも今回は何しろ唐十郎戯曲を読む!というタイトルですから。

(『ジャガーの眼』について)
ずっと、日本で一番の戯曲でないだろうかと思っている。
おそらくこの戯曲は日本一位なんです。
天野天街さんの『高丘親王航海記』と、両頭ではないだろうか。

それが大体私にとって、1位2位の戯曲。

これまで唐十郎さんについて表立って語るようなことをしてこなかったが、劇作家20年という節目でもあり(45歳、『ジャガーの眼』執筆時の唐さんと同い年でもある)、ひびのさんのお願いだから思いきれて、引き受けることができた。

タニノさんにとって唐十郎さんはきわめて大きな存在である。
タニノさんが演出家、劇作家を志した直接の作品であるから。

今年45歳という世代で、唐十郎さんのこの作品から影響を受けた人は少ないと思う。
影響を受けた人がいるとして、基本的にはもう少し上の世代が多いのではないかと思う。

最初に『ジャガーの眼』と出会ったのは、大学時代に演劇部に入った時。
その演劇部は一時途絶えており、タニノさんの入学した年にはもう直接の先輩がおらず、1998年に同期だけで演劇部を作った。
そこの10歳以上うえのOBに唐十郎さんのフリークがいて、公認を受けてHPを運営している人だった。
かつて「唐ファン」というHPがあった。

そして、その人に最初にVHSで、『ジャガーの眼』の映像を借りて観た。

ぺニノ前、観劇経験の全くない状態でこれをみて、震えるほど感動した。
いわばイニシエーションが起きた。
自分の中のあらゆる感覚が目覚める印象を受けた。
唐十郎さん、状況劇場も唐組も寺山修司も知らなかった。
その状態で『ジャガーの眼』を観て、ぶっ飛んだ。

生の演劇もほとんど観たことがなかったのに、VHSのガサガサの映像で震えるほど感動してしまった。

そういう意味で演劇の配信はどんどんやったらいいと思う。
タニノさんもまた映像に触発され、ものすごく感動したから。

さてそんなこんなで『ジャガーの眼』という作品の映像と出逢ってしまったことが、劇作家として、演出家としてのキャリアをスタートする大きなきっかけになった。

当時お金がなかったから、下北沢の劇場へ行って舞台を観ていた。
拙者ムニエル、猫ニャー、THE SHAMPOO HAT、毛皮族 ポツドール
などの、当時イケてるとされている連中の作品を見ていた。

学生だからお金はなかったが、しかし唐組は演劇部のOBが奢ってくれるから、よく観ることが出来た。
最初に見たのは『秘密の花園』
すごかったけど、訳が分からなかった。

そもそも『ジャガーの眼』の、しかも映像しか観ていなかったから、紅テントに圧倒されて1mmもわからなかった。

温室育ちだったタニノさんとしては素直に「演劇を観るのって過酷だな」って思った。

当時、初めて唐十郎さんの演劇を観た感想として、「難しい哲学書を何冊も読んで途中でやめるような、プチインテリが書いた作品だな」と同級生に向かって言ったらしい。
唐十郎さんの上演をまったく理解できない自分に腹が立っていたのだと思う。
それでもめげずに観つづけたものの、いよいよわからなかった。

そんな学生時代に、生の唐十郎に会う機会があった。
例の唐ファンのOB連中の縁でもって。
そのOB連中が公演を打つことになり、唐さんの作品へのオマージュを上演していた。

そこの打ち上げに唐さんがいらしていた。
タニノさんは劇団同期の連中と、打ち上げの席の本物の唐十郎を茶化そうとした。

タニノさんの劇団の連中で、居酒屋で鶏のから揚げや辛子、とか「から」と名の付くものをオーダーしまくってからかっていた。唐さんからは眼中になかったかもしれないが…。

唐さんの作品は、そんなこんなで観つづけていた。
数を重ねるごとに、だんだん面白さを感じるようになっていった。

『ジャガーの眼』の映像も何度も見たし、何度も通ううちに紅テントの中での過ごし方、劇団を続けること、同じ形態で創作を続けることや、劇団員の入れ代わりを数年かけて追うことがそのまま勉強になり、尊敬の念もますます強くなった。

大学を卒業し、演劇活動を本格化させる中で唐組の俳優さんにオファーを出した。
当時唐さんはあまり劇団員に客演を許さなかったのだが、タニノさんが若かったこともあり快諾してくれた。

2006年 ダークマスター 久保井研さん。 アゴラ劇場
久保井さんの演技の凄さは、唐組の作品で理解していた。

ダークマスターの翌年、『笑顔の砦』(駅前劇場 2007年)で再び久保井さんにオファーを出した。
本番を観に来てくれて、打ち上げにも唐さんが来てくれたが何を言ってくれたかほとんど覚えていない。
ただ、たしか「これはハンカチの作品だね」と言われた。
内心「全然そうじゃない」と思いつつ、天才にしか見えない世界があるのだと思った。

この作品の打ち上げの席で唐さんは「酒が出てくるのが遅い」といって厨房に怒鳴り込み、そのままタクシーで帰ってしまった。

その後2009年に、『太陽と下着の見える町』を再び観に来てくれた。
これはあまりおもしろくなかったのか、終演後に「僕は君みたいにサディストじゃないよ」と言われた。
感想をもらったはいいものの怖くて久保井さんにもその真意を聞けず、未だに自分の中でとどめている。

その後、2015年に『地獄谷温泉〜』で岸田國士戯曲賞を受賞した時に、紅テントの公演を観に行き、芝居がハネた後に唐さんに受賞報告をした。
『地獄谷温泉〜』には劇団唐組の辻孝彦さんという俳優さんが参加されていた。
受賞の報告をすると、当時すでに車椅子に乗られていたものの、「ああ、よかったね」と言ってもらえた。

その後2019年に久保井さん演出で『ジャガーの眼』を再演されることがあった。
それがタニノさんにとっては20年越しの『ジャガーの眼』の生の上演で、もちろん初演とは違うけれども、久保井さんは本を読みこんで理解し、同化することができる演出家なのだと思った。
俳優もそれに応えて見事に演技をし、本当に素晴らしかった。

20年越しで本物の上演に触れて本当に『ジャガーの眼』最高だな、と思った。

何でこの作品が好きなのかは、しかしよくわからない。

”劇作家・タニノクロウ”としてこの世に生まれた時に観てしまったのだという個人的な要因も大きいかもしれないが、意識的に飾れないような、自分の繊細な部分を見つめる気持ちになる。

ゆえに『ジャガーの眼』について語ることというのは、自分にとって開けちゃいけない部分であるという気持ちがあった。
『特権的肉体論』とかも、好きすぎるがゆえにうまく距離が取れなくて、読んでいない。
しかし、今となっては読んでみてもいいのかもしれない。

要するに唐十郎が好きなのかジャガーの眼が好きなのか、今はまだ分からない。

(日比野先生からの補足)
初演版と、2008年版とで田口のモノローグなどに若干の違いがある。
面白くなっている、と言ってよいだろう改稿。

堀切直人 ジャガーの眼論 「車輪の大冒険」
ジャガーの眼=人間の狂気の正体。

寺山修司が覗きで捕まったエピソードの紹介。
読売新聞での報道。
→『ジャガーの眼』の冒頭で触れられる。

劇中にも出てくる「臓器交換序説」→寺山修司のエッセイ
ブルガーコフ 犬の心臓 そのエピソードもしれっと折り込まれている。

寺山修司はあまり有名でない詩を見つけてくる天才。
そしてそれを唐十郎がうまく転用したものと言える。

この時期の唐十郎
1982年 芥川賞受賞 『佐川君からの手紙』を契機として、小説の注文が増えていた。
80年代は、唐十郎のキャリアの中では比較的傑作が少ない時代としてとらえられていることが多いのではないか。
80年代はじめに全集の出版もあり、それで一息ついた感じは世間的にもあったはず。

45歳で『ジャガーの眼』を執筆することに。
(この公演では李麗仙さんが休演→1988年に状況劇場解散)

80年代の他の傑作として『少女都市からの呼び声』がある。

日比野さんは『ジャガーの眼』初演を紅テントで見ていた。
当時の、唐十郎への「旬を過ぎた」という世間の空気も、うっすらと感じていた。
初演時、そこまで鮮烈なイメージはなかったのかもしれない。

寺山修司オマージュと言う事で一通りの話題性はあった。

『ジャガーの眼』ごっこが当時の演劇人の中で流行った。(タニノさんの伝聞?)

【読み合わせでどこを読むか?どこを読んでも面白いが…】

夏子としんいちの会話「ねえ、なぜ?」~しんいちとくるみの一連
p60-64 「間。」 でスイッチ
p64-67 音楽の手前まで。

Mさん しんいち
M2さん 夏子
Yさん くるみ

(タニノさん)
(演劇の)作法をすっ飛ばしてもいいかなと思っている。
このあとはタニノさんのおまかせとなる。

作法をすっ飛ばして読んだ方がいいのかもしれない。
「アタックが強め」である。
テント芝居だから、街の雑踏に負けない、テントに抗う、ということで結局のところ妖怪大戦争になる。
とにかく書かれている文字が、愛の弾丸だとおもってひとまず撃ちまくるのがいいのではないか。
登場人物たちも衝動的に言葉を発している節がある。

(このシーンを選んだ理由。)
この戯曲の中で好きなのが、男女のロマンスの部分。
唐さんの戯曲の真髄は、そうしたロマンスにあるのではないか。
人間同士の愛憎、そこに尽きる。
社会や世界の捉え方がユニークなのは確かである。
しかし、いったんそこは脇に置き、、、
たとえば論争のシーンとかがおもしろい。
しんいちがDr.弁のところへいって問診するシーン、その脱線のありようなど。

唐さん自身、すげえ訳の分からない恋愛をしていたのだろうと思わされる凄みがある。
年齢関係なく、愛の受け渡し合いで生涯を過ごしたいと思うのは人間の本質であろう。
そういう意味でこのシーンをみたいと思った。

そしてシンプルに、この夏子としんいちのやりとりがむちゃくちゃ好きだから聞きたい!

(読み終わってみて、タニノさん)
むちゃくちゃいいシーン。
これだけで泣きそうになる。
しんいちとくるみはこのシーンの前でも会っているんですね。

くるみの執着が見えたい。
もう聞いているだけで泣いてしまう。
アタック強めで、どんどん読んでいきましょう。

(テキストレジを入れてみる)
「つかの間『を』生きたお前」にしましょう。

(読んでみて、タニノさん)

むちゃくちゃいい。
最高!

(同じところを3人スイッチして、読み合わせてみる。)

Kさん しんいち
K2さん 夏子
K3さん くるみ

日比野さんのト書きもまた、アタックが強くあらねばならぬ。

(タニノさんディレクション)

バーチャル背景を、アタック強めの背景に変えましょう!!
タニノさんは背景を梅宮辰夫さんに変更。
タニノさんは顔面にセロテープを貼る。

みんな、背景を変更し、帽子を被ったり、メイクをしたりしてアタックを強くしていきます。

「アタックを強くすることで、唐十郎の物語の新たな世界が開くから。何かの扉とかが開くことがある。」

(テキストレジ)
2個のくるみ→金玉 にしましょう。

「こんな風に尾け」→「びけ」と読みましょう。
「身を引け」→「みをぴけ」にします。
一旦間違えちゃいましょう。

「向うからきたな」
稲川淳二でいけ!

(そして読み終わってみて)

アタックも強くなり、素晴らしいです。
これだけでキングオブコントにも出られます。
各々のバーチャル背景(たばこ口の中に詰め込まれている女性と菅原文太)が喋っている、と思ってやってみましょう。
(参加者の方にはフレームアウトしてもらう)

【ちがう場面】
論争
p.53-p.55

田口とサラマンダー
p.76-

Mさん
Yさん

田口はロックスターでいきましょう
やっつけな感じで…

(読み合わせ、ここまで)

名称未設定のデザイン

【タニノさんによるまとめ】

名作といわれる戯曲は、作者へのリスペクトが一旦破壊されて、弄ばれて、おもちゃにされて、ゴミのような作品が山のように積もった中から優れた演出が生まれるものだと思う。

世界中のあらゆる名作、シェイクスピアもベケットも、あるいはオペラの名曲でも、至る所でロクでもない演出によって凌辱されまくっている。

例えば状況劇場の俳優さんは唐さんと同世代で、リスペクトもあったと同時に、大酒飲んで笑い合える友人でもあったはず。

映像を観るとよくわかるのだが、役者が台詞を吐きながら、その唐さんの言葉について「なんだこの台詞は?」「すげえな、この台詞は」「笑っちゃうな」などと、思わずいろいろ頭の中で考えている瞬間が見えたりする。

そんな瞬間に、役を超えた人間らしさを感じる側面があり、唐さんの作品はそこが面白い。

それぞれが役者であり、同時に一人間として唐十郎の友人であるという偶然稀有なバランスの中にあった劇団で、そこに人を惹きつける魅力が生まれ、ファンがついたのだと思う。

唐十郎が同時代であったところから、少し下ってある意味では「唐十郎」という存在が崇め奉られ神聖化されるような時代があり、そして詳細な戯曲分析の対象となる時期があり、それも過ぎて「唐十郎へのノスタルジー」を感じる時代も超えた後に、それらもすべてひっくるめて唐十郎戯曲が気軽な遊び道具となった時に、すごく新しいゴミの山と、僅かだけども眩しく光る宝石みたいなものが生まれる気がする。

『ジャガーの眼』は、そういう存在たりうる戯曲だと思っている。

タニノさんは、最初にも言った通りこの戯曲が一位だと思っている。(2位が天野天街さんの『高丘親王航海記』)

弄ばれるくらい、めちゃくちゃにされていい。
そうしていろんなゴミの山を新しい世代が作っていけば、その中で普遍的な輝く上演も生まれる。そうした営みに耐えうる作品で、『ジャガーの眼』はそうして永久に残り、長く愛される名作だと思っている。

(以上)

【唐戯曲を読む!次回、最終回 『秘密の花園』】

唐戯曲を読む!第7回
『秘密の花園』(ナビゲーター:日比野啓[演劇研究者、成蹊大学教授])
5月23日 19:30-21:30(19:00より入室が可能になります。回によって22時ごろまで延長することもあります)
お申し込みはこちらから。https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/01jh7411cfmu5.html


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