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【韓国論文】英語翻訳をヒントに韓国の詩と歴史を学ぶ


1.どんな文学作品を読むのがいいのか

以前、より高いレベルの韓国語を目指す学習者は文学作品の活用が有効的だと紹介しました。
代表的なものは、短編小説を読んだり翻訳してみることです。

今回は、小説より短い、詩を鑑賞したり学習者のなじみある英語詩を韓国語に翻訳することで、韓国語の語彙と表現を増やそうとする研究を共有します。

共有する論文:ジョ・ギュテク「詩の翻訳を活用した韓国語教育方案研究:英語圏上級学習者を中心に」


2.詩をどのように韓国語学習に活用するか

この論文は英語圏の韓国語学習者を対象に、韓国の詩でみられる語彙と表現を効果的に教えるために翻訳活動をすることを提案しています。
翻訳をすることでリーディングとライティング能力を向上させ、韓国の社会的背景を理解できるようになることが期待されます。

翻訳は、スタート言語とターゲット言語の脈略とふたつの言語の違いを十分に理解したうえで、スタート言語をターゲット言語で表現しなおすことをいいます。
韓国語の授業の現場では、韓国語を教えることに重点が置かれるため、学習者がすでに持っている母語に大した知識を見過ごしてしまう傾向があります。
また、詩は象徴的で含みがある言葉を使います。
他には、作者の意図を表現するために文法的に正しくなかったり方言や造語が使われたりして様々に解釈できるため、授業現場への活用が簡単じゃないという見解もあります。

翻訳活動を韓国語学習に提案する論文において注目する点は、学習者が自分で翻訳したり翻訳テクストの表現に慣れて、文法的な力が向上する点に焦点を当てていることです。

この論文では、先行研究で扱われていない文学作品を学習者の母語に翻訳して、その過程で韓国語の語彙や表現を教えることを提案しています。
また、英語圏学習者にとって馴染みある英詩を韓国語に翻訳する練習を通して、全体的な韓国語のコミュニケーション能力を上げることも狙いになります。
このような文学作品を使う授業で注意しなければならないことは、あくまで作品に登場する韓国語の語彙と表現、それからこれらに関連した文化的な背景知識を教えることで、最終的に学習者が正確で流暢な韓国語が使えるようになることが目的です。
韓国文学それ自体を教えることは授業目的ではありません。
そのため、翻訳の質を評価するような翻訳家を育成する専門翻訳の授業とは区別されます

成果物としての翻訳の質を評価しない代わりに、論文では、学習者が翻訳するまでの過程を、翻訳する作品を読む前と中と後の三段階に分けて教えることを示しました。
前段階では、教材になるテクストと関連した異なる資料を提示して、学習者に興味を持たせたり、タイトルから内容を予想してみたりします。
中段階では、前段階で得た事前知識をもとに学習者自身が予想したことを確認しながら作品のテクストを理解していきます。
後段階では、学習した語彙や表現を使いながら、今まで学習した内容を整理していきます。

論文では、授業に活用する文学作品として「국군은 죽어서 말한다」と「다부원에서」のふたつの韓国詩を活用しました。
そのためにそれぞれの詩に使われている語彙と表現を次のようにリスト化しました。

「국군은 죽어서 말한다」
자랑스럽다(proud)
청춘(youth)
비겁다(coward)
젊은 죽음(隠喩)
바람이여!(頓呼法) など

「다부원에서」
목숨(life)
국토(homeland)
싸늘하다(chilly)
간고등어 냄새로 썩고 있는 다분원(隠喩)
안주의 집이 없고 바람만 분다(逆説) など

pp.28-38

これらは、同じ表現でも日常で使われる言葉や口語と違い、詩的文語体で使われていることに言及する必要があります。
例えば、숨지다の一般的な英語訳はdieです。
しかし、fallと翻訳すれば、ただdieと翻訳するよりも原文の詩が表現しようとする、敵の銃弾によって倒れて死んでいく情景を描写できるといえます。
このように、辞書的に翻訳していくのではなく、詩が表現しようとしている内容を学習者の母語でどのように表現すればいいのかを考えていく過程を通して、全体的な韓国語能力を上げていくことが狙いです。

また、この2つの詩は南北戦争に関連した詩として、韓国の歴史を理解する必要があります。
学習のまとめとして、この2つの詩と近い背景をもつ英詩の「The soldier 」と「Reconciliation」を韓国語に翻訳することで、これまでの勉強したことを活用する練習をします。

論文の筆者は、教師側の負担が大きい点や翻訳活動で効果的に読む・書く・聞く・話すを統合させた教育になるような教育方案を樹立できなかった点を今回の研究の限界だとしました。


3.授業方案としては面白いけど

今回読んだ論文では、詩を使った韓国語学習として具体的な方法が提案されました。
上級レベルの学習者を対象にしていますが、詩は独特な表現をもつことと、論文の筆者は戦争による痛みに関する歴史を普遍的なものとしていますが、今の韓国生活と直接的な関係が見えづらい分、学習者によってはアプローチが難しいような気がします。
おそらく、この部分を理解しやすくするために英詩を資料として使うのかなと思います。

論文で活用された詩は、韓国で文学的価値が評価され、広く韓国人に読まれているものとして、「국군은 죽어서 말한다」と「다부원에서」が選定されました。
しかし、この韓国の詩を母語に翻訳してみた後、同じテーマの母語の詩を韓国語に翻訳するという活動の流れは、他の作品でも有用でしょう。
例えば、学習者の関心に合わせてK-POPの有名な楽曲の歌詞を教材や資料に選定すれば、学習者の韓国語レベルに合わせた作品を探しやすくなりますし、音声もあるので読むだけでなくどのような発音になるのかも確認できます。
楽曲によっては、韓国の社会文化や南北戦争のような歴史と結び付けて学習できることも期待できます。

いちばんの問題は、教師側の問題です。
このような翻訳しながら学習していく方法は、あきらかな誤訳を添削する必要があります。
そのため、韓国語と学習者の母語の両方に精通しなければならず、教えられる人が限られたり教師の育成をどうするかが大きな課題です。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
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論文

ジョ・ギュテク(2022)「詩の翻訳を活用した韓国語教育方案研究:英語圏上級学習者を中心に」ケミョン大学大学院、修士学位論文

조규택(2022)「시 번역을 활용한 한국어교육 방안 연구 : 고급 영어권 학습자를 중심으로」 계명대학교 대학원 석사학위논문

「국군은 죽어서 말한다」の全文↓

「다부원에서」の全文↓

文学作品を使った韓国語学習の有効性について↓


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