2023年3月に読んでよかった本

紙の動物園

ケン・リュウのSF短編集。
表題作の「紙の動物園」はすごい賞を3つも取ったすごい作品らしい。でも、それより「1ビットのエラー」という短編が一番好きだった。
テッド・チャンの短編「地獄とは神の不在なり」に着想を得ており、同様の世界観の作品なんだけど、題名にある「1ビット」という言葉のとおり、電子工学的、情報科学的な要素から信仰を表現することを試みている。もともとエンジニアだったケン・リュウならではだ。
ほかにもテッド・チャンの作品に着想を得たと思しき作品がいくつかある。テッド・チャン大好き人間としてはにっこりしてしまう。
SFは短編に限る。核となる技術要素でもって人間心理を描写しようとすると、長編だとどうしても冗長になる気がするから。
未実現の技術で人間心理を外挿することにSF作品の醍醐味があると思ってるんだよね。過ぎたる技術を与えられた人類は、それにどのように向き合うのだろうかということにね。
今現在のChatGPTをはじめとするAI周辺の世間の動きを見てると小説っぽいなーとも思ったりするよ。

ライ麦畑でつかまえて(キャッチャー・イン・ザ・ライ)

野崎孝訳と村上春樹訳で読み比べてみた。
村上春樹臭全開かと思ったらそうでもなかったんだな。これが。
もともとティーンエージャーのモノローグという形式だから違和感がなかったのかも。
内容的にはそんなに刺さらなかった。自分が年をとりすぎた(あるいは幼すぎる)からかもしれないし、ひねくれが板につきすぎちゃったからかもしれない。昔読んだハズだけど記憶に残ってないってことは当時もそんなに刺さらなかったんだろうな。(あるいは刺さりすぎて途中でやめたか)
ティーンエージャーの言葉にしにくい心の機微を見事に言語化しているなと思う。「そのとき突然○○したくなったんだ」「こういうのがたまらなく嫌なんだ」とかわかるもんね。
でも自分に言わせれば、ホールデンはもう少し黙って自分の世界に没頭することを覚えたほうがいい。他者からの反応ひとつひとつをもっとよく吟味して自己を探索し、少しでも折り合いをつけることに時間をとるべきだ。彼のおかれた環境、あるいはアメリカという国の風潮がそれを許さないのかもしれないけど。そう思うのは自分が「大人」になった証拠かもしれないけど!!!!
この作品1946年くらいが舞台なんだけど、大人対子どもという構図は今では一大テーマじゃなくなってるのかもしれないなと思った。大人も子どもも同じコンテンツを見てるし、子どもみてーな大人(含自分)いっぱいいるしね。


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