2024年4月に読んでよかった本「毒婦たち 東電OLと木嶋佳苗のあいだ」「女という病」

「女はケアで男を殺す」

『毒婦たち』は上野千鶴子と信田さよ子と北原みのりの鼎談である。
印象に残ったのは「女はケアで男を殺す」という言葉。
わたしにはこれが男女関係、あるいは人間関係にまつわる問題をひと言で言い表したものに思えるのだ。

なぜ木嶋佳苗は男性から大金を引き出すことができたのか。
それは彼女が孤独な高齢男性が本当に必要としていたものを提供できたからではないかと分析されているのだ。
彼らが欲していたのは単なる肉体的な満足(セックス)ではなく、精神的な満足だったのだ。
彼女はそれを提供することができた。手料理を振る舞ってやり会話をしてやり世話をしてやることで彼らに満足を与えた。
世話の対価として金銭を要求し受け取っていたと考えるならば、彼女の態度にも頷けるところがあるのだ。それは仕事と同じなのだから。

ここで思い出すのはりりちゃんである。
彼女のことはあまり知らないが、同じものを感じるのだ。
りりちゃんも世間的には詐欺師かもしれないが、実態はケアだったのではないか。

彼女は男性が本当に求めることをした。その対価として金銭を得た。それだけ見ると問題はない。
金銭が一般常識に照らし合わせてあまりにも多いとか、嘘をついて騙し取ったとかそれはそれで問題なのだが、わたしが気になるのはなぜそれができたのかであり、それはケアというひと言に尽きるのではないかとおもうのだ。

人が求めるところをしてあげるというのが価値の源泉でありビジネスの本質であるとするなら、彼女はすでにその本質を十分に体得している。
彼女を求める人間は後を絶たないだろう。

女という病

正直に白状すると総体としての「アレ」のメンタリティの一端に触れたいと思ってこの本を読んだのだ。
総体としてのアレと犯罪者を同じにしているわけではもちろん、ない。
ただ、なぜ彼/彼女らは「アレ」を選択し、わたしは「アレ」に惹きつけられるのかに、一つの側面から説明をしてみたかったのだ。

13人の女性犯罪者/被害者について筆者が分析するという内容だが、この筆者の分析がなかなか精緻であるように感じたのだ。
著者は13人は私のグロテスクな鏡像と言う。他者に自分を見出せる人間は貴重だ。それを直視できる人間となるとなおさらである。

彼女らは「私」の物語を希求している。
「私」の物語を求めざるを得ないところに女性の苦しみがあるのだと述べられている。各犯罪はひとつの自分語りであるのだ。なんとなくそんな気がする。

もっとも、個人的な意見を述べると最近は男性、特に若年層にも同じものを感じる。「私」を希求している。多分「私」を求めざるを得なくなったのだと思われる。

ちなみにわたしが一番惹かれたのは「赤い自転車連続通り魔事件」である。
なぜか?美少女と呼ばれる人種の他者を伴わない自意識の形成とその崩壊にとんでもなく説得力のある言語化がなされていたから。詳しくは本文を読んでネ😉

「アレ」とりりちゃんと木嶋佳苗のあいだ

「アレ」とわたしの関わりについて

本を読んであらためて自覚したのは、「アレ」に触れているとき、わたしはケアされている、と言うことである。
配信を見るとき寂しさのようなものの手当てをしてもらっているような気になるのだ。
それと同時にわたしも彼/彼女らをケアしているように感じるのはわたしの傲慢だろうか?

でも決して全て間違いというわけではないと思うのだ。
彼/彼女らの自分探し(自分づくり?自分語り?)に加担させられている気がするときが確かにある。

でもそれでいいと思う。
自分なるものは他者との関わりの中でしか見出せないのだから。
表現した「私」に対して他者から反応をもらうことでしか自分なるものは形成されないのだから。

我々の前に現れる「アレ」は全て「私」になる。
そういう意味で本質(Virtual)であり、配信は本質的にコミュニケーションなのだ。

ケアという言葉を、構うという言葉に置き換えても大きく違わないかもしれない。
配信者はリスナーに構われリスナーは配信者に構われる。
お互いにケアしあってお互いに新しい自分を発見する。
そういう関係が築けるといいですね。築けるでしょうか?

「アレ」とりりちゃんと木嶋佳苗の違い

やっていることがケアである点に違いはないと思う。
違いは、ケアが目的ではなく手段である点とケアの相互性にあるのではないか。
つまり、「金のためにしてあげている」「時間を投下してやっている」という意識の差ではないだろうか?
もちろんそれはゼロイチできれいに分けられるものではなくグラデーションになっているし、さらに時間経過で揺れ動くものでもある。
もし、万が一、そのグラデーションが片方に寄り、それが常態化するとしたら?それは片方だけの問題ではないことは確かである。


「アレ」とは:


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