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紅茶の手紙 "Pardonne-moi."


あなたに謝らなければなりません。


私はほんとうに愚かで、目先のことしか見えていなくて、
すぐに調子の好いことを言って安請け合いして、
そのくせ見事に期待を裏切るのです。
ああ、いつもそう。まるで学習しません。

だけど恥知らずなことに、私はどうしてもあなたに嫌われたくはないので、
詫び状としてこれを送ります。

きっとこれしかないだろうと思って贈ります。


茶葉は6種類から2種、選べるのだそうです。

あいにく私は紅茶を嗜みませんし、あなたの好みもわかりません。
紅茶好きな人に、紅茶を飲まない人が、紅茶を贈るだなんて、
なんと愚かでリスキーなことでしょう。
しかしまぁ、あなたはけっこう何でも楽しむ度量がおありの人だし、
たとえ気に入らなくてもティーバッグをほんのふたつずつ程度なら
そう邪魔にもなるまいと。
もし気に入ったなら、あらためて買い直せばいいわけですし。
なんなら一緒に買いに行くことを
赦してくれるんじゃないかと、赦してほしいなぁなんて、
ええ、まぁ、はい、そんなかんじです。


ひとつめは迷いませんでした。
THÉ DE L'HIVER 、「冬の紅茶」という名前の茶葉です。

イヴェール。とても綺麗な響きですね。
ちょうど、今の季節にぴったりでしょう。
ヴァニラ、キャラメル、カカオ、カフェ…。
こっくりと奥深い、まろやかな風味が詰め込まれた紅茶だそうです。
ミルクティーにもよいのだとか。
私は自分からすすんで紅茶を飲むことはあまりありませんが、
ミルクで煮出したロイヤルミルクティーや、チャイなんかは好きです。
ですから、…いえ、まぁ、私の好みなどこの際どうでもいいですが。

ふたつめは、これは少し迷いました。
何しろ私は、オレンジペコをオレンジ味のお茶だと思っていたようなうつけですので。
あなたの好みをやんわりと探ろうともしたのですが、
アールグレイだのダージリンだの、いろんな種類のいろんなメーカーのを
その時々の気分で選んでいるようですから。
あなたに気に入ってもらうには、どうしたって博打にしかならんでしょう。
どうせよくわからないのだからと、見た目で選んでしまいました。

艶やかな薔薇色と、矢車菊の青と、金盞花の黄色がとても美しくて。
これなら、たとえ味が気に入らなくとも、
見目であなたを喜ばせることもできるのかもしれないと。

KIMONO という名前がつけられています。
ま、これは煎茶なのだそうなのですが、
紅茶も緑茶も葉っぱはみな同じものだそうですし、
あなたは食後の日本茶もお好きですから、
きっと気に入っていただけるのではないか、な、なんて。


さて、茶葉を選んで、白く清楚な封筒に包んで、
あとはあなたに届けるだけといきたいところではありますが
いちおう、これは手紙ですので。

いかにこの紅茶が芳しく、あなたの心を慰めることができたとしても、
そこに私の言葉がないのであれば、
やはり誠実とは言えんのではないのかなんて思うわけで。

だから今、こうして必死で言葉を探してはしたためているのですが
もう綴れば綴るほどぼろが出て、
いっそこの口を閉じて窒息するべきなのではとまで思えてきます。
きっとこのサーヴィスを提供していらっしゃる人々は、
ありがとうとか大好きだよとか、そういうポジティブな言葉を添えて送ってほしいと思っているのだろうに。
私ときたらどこまでも情けなく、
ゆるしてください、私を嫌わないでください、ただその一心です。

ごめんなさい。私が悪うございました。


もしほんのちょっとでもこの手紙に心動かされてくれたなら、
次の日曜の午後に玄関の扉を開けてくれると嬉しい。




P.S.
そしてもしよろしければ、お味のご感想をいただけますと幸いです。


アンシャンテ・ジャポン
紅茶の手紙「C’est l’heure du thé !」
http://www.enchan-the.com/letter/index.html

ついさっき、届きました。ポットへ入れるのが楽しみです。


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