装画『ブルーもしくはブルー』-メイキング
新装版の装画を担当いたしました。
1:ご依頼
デザイナーさんから、この時点でのイメージラフもいただきました。
打ち合わせまでにゲラを読み、簡単なアイディアスケッチを作っておきます。
2:オンライン打ち合わせ(約10日後)
編集さんは↑のような正面顔、
デザイナーさんは↑のような横顔をふたりぶん組み合わせて「同じ顔の二人の人間」を表現するイメージだったそうです。
私としては描きやすいのは横顔なのですが、今回はゾクッとする展開・サスペンス要素が強いので、正面顔で眼力強く訴えかけてくるような絵面にしたらどうかとご提案しました。
正面顔のオリジナル作品「移り気な垣根」を仮に使って
「ショートヘアで強気な東京の蒼子A」
「ロングヘアでおとなしい博多の蒼子B」
を重ね合わせ、二人がお互いの首を締め合って(お互いの存在を奪い合って)いる構図。
これを雛形として構成することになりました。
とのオーダーが出たので、メモも兼ねてその場でできる範囲だけやってみました。
体のポーズはソラでは描けないので後のラフスケッチで。
また、これだと顔立ちが幼いので本番はもっと大人っぽくする予定。
ちなみに、一応別案もざっくり考えてはいました。
自分でも第一候補が最も力強いなと感じたので捨て案みたくなりましたが。
3:ラフスケッチ(約2週間後)
右半分がショートヘアで吊り眉の蒼子A
左半分がロングヘアで笑顔(どことなく不気味)の蒼子B
顔のパーツがズレて重なっていると不安定感が強すぎたので、顔まわりはグラデーション的にメタモルフォーゼするイメージに。
首から下は色収差っぽくブレさせてもいいのかな?と。
飛沫やテクスチャを入れて怖い雰囲気を出してみたりもしました。
だいたいはこれでOKとなりましたが、
今回はどうにも「実際描いてみないとどうなるかわからん」かんじだったのでドキドキしました。
4:Photoshopで作画
「移り気な垣根」など髪の毛を繊細に描き込むものはシャーペンで描くのがほとんどなのですが、今回は左右対象感とチグハグ感のバランスが難しそうだったので最初からデジタルで制作しました。
それぞれの顔をそのままだとこんな↑かんじ。
途中経過はほぼ残っていなかったので一足飛びですが↓
髪の毛の質感が、シャーペン手描きの場合よりやっぱり多少違うかも。
この時は腕にブレた線を重ねています。
またラフよりも肌に色がつき、白文字のタイトルが映えるように調整しました。
5:納品(約2週間後)
色収差っぽい加工を施したver。
ズレ?ブレ?をどこまでやるか測りかねたので加工あり・なし両方提出しました。
また蒼子B(ピンク)の笑んだ目元がより強調されています。
6:フィードバック(3日後)
左右の表情に差をつけすぎてしまったようです。
ただ、修正するにしても
眉の形を蒼子A(青)に合わせるとちょっと不穏すぎるので、眉はそのままのほうがよいのでは…とご提案しました。
↓は取り急ぎ作った比較図。
目を見開いてるのに眉と口元は柔らかく笑っている…という怖さも蒼子Bのイメージに合う気がします。
(Bは第一印象は柔らかで気弱そうなのに、強かで恐ろしい一面もある女性なのです)
それと吊り眉・垂れ眉が重なると青の髪の向こうにピンク眉が透けて、
ふたりが重なってる感じ・色が馴染む感じの両方が出せます。
これでOKが出たので修正作業に入ります。
(微妙な表情のニュアンスはとりあえず描いて渡してみないとお互いわからないので難しいですね)
7:修正(即日/ご依頼から約7週間)
表情修正版。
色収差や手のブレはスケジュールの都合もあってナシにしてもらったのですが、結果的にスッキリしてよかったかもとも。
ちなみに、今回「眼力を強く」「鼻は描いて」とオーダーされていたのですが描いているうちに「目のハイライトなし・鼻控えめもそれはそれで怖い雰囲気が出てよいのでは」と作ってみたものもあります。
(右側のハイライトなしverのほうが「移り気な垣根」に近い雰囲気になってる気がします)
目鼻のデフォルメ具合は小説の雰囲気によっていろいろ変えてみたくなってしまうので困る。なぜか鼻を省略した方が大人っぽく見える場合があるような気がするのですがなぜでしょう。気のせいなのか?
8:完成
『ブルーもしくはブルー』このタイトル、文字数が多いしどこで切って配置するか難しそう…と思っていたのですがとてもかっこよく仕上がっていて流石だなぁと。
見た人をゾクッとさせられたらいいなぁ、読み終わった後にもう一度見たら怖いだけじゃないと感じてもらえたらもっといいなと思いながら描きましたが、うーんどうでしょう。
25年も前の小説なのですが今読んでも古い感じはしなくて、お互い本気で殺し合うサスペンスかと思いきやシスターフッド的なぬくもりも感じられるような…読んでいる間に印象が二転三転してとても面白いお話でした。
帯に大きく「今、この時こそ読まれるべき名作です」と柚木麻子さんのコメントが掲載されています。この解説部分だけをwebで読むこともできます。
こちらも読み応えあるのでぜひぜひ。
この作品、2003年にドラマ化されています。
ドラマのラストは小説とは違う展開だったそう。解説ではそのことについても触れています。
(私はドラマの方は未見ですが、この解説を読んで「嗚呼…」となってしまったり…)
「この小説、むかし読んだ」「ドラマ見た、懐かしい」という人にもぜひ手に取っていただきたい本書。
よろしくお願いいたします。
サポートしていただいた売り上げはイラストレーターとしての活動資金や、ちょっとおいしいごはんを食べたり映画を見たり、何かしら創作活動の糧とさせていただきます。いつも本当にありがとうございます!!