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装画『ブルーもしくはブルー』-メイキング

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『ブルーもしくはブルー』
著:山本文緒 氏
刊:角川文庫
発売日:2021/05/21
デザイン:大原由衣 氏

新装版の装画を担当いたしました。

高収入でスマートな男性と結婚し、都心の高級マンションで人から羨まれる暮しを送る佐々木蒼子。しかし夫には愛人、自身にも若い恋人がいて夫婦の関係は冷めていた。
恋人と旅行の帰途。偶然、一人で立ち寄ることになった博多の街中で昔の恋人・河見を見かける。彼に寄り添っていたのは、なんと自分そっくりのもう一人の「蒼子」だった。
「ドッペルゲンガー?」名前も顔も同じなのに、全く違う人生を送る2人の蒼子。互いに言いようのない好奇心と羨みを抱いた2人は、1か月だけ期間限定で入れ替わり生活してみることにする。しかし、事態は思わぬ展開となって……! 
「私より、あっちの蒼子の方が幸せなのかもしれない」読みだしたら止まらない、中毒性ありの山本ワールドが新装版で登場。


1:ご依頼

・文庫版(新装版)装画1点
・納期:約40日

・人物(ふたりの「蒼子」)をメインに
・青を基調に
・詳しくは後日オンラインの打ち合わせで

デザイナーさんから、この時点でのイメージラフもいただきました。
打ち合わせまでにゲラを読み、簡単なアイディアスケッチを作っておきます。

2:オンライン打ち合わせ(約10日後)

編集さんは↑のような正面顔、

デザイナーさんは↑のような横顔をふたりぶん組み合わせて「同じ顔の二人の人間」を表現するイメージだったそうです。
私としては描きやすいのは横顔なのですが、今回はゾクッとする展開・サスペンス要素が強いので、正面顔で眼力強く訴えかけてくるような絵面にしたらどうかとご提案しました。

ブルーもしくはブルー_ラフ

正面顔のオリジナル作品「移り気な垣根」を仮に使って
「ショートヘアで強気な東京の蒼子A」
「ロングヘアでおとなしい博多の蒼子B」

を重ね合わせ、二人がお互いの首を締め合って(お互いの存在を奪い合って)いる構図。
これを雛形として構成することになりました。

・首を絞めるポーズは怖すぎるので、体を奪い合うようにも自分(たち)を抱き締め合うようにも見えるポーズにしてほしい
 (怖いだけの話ではないのでやりすぎないように)
・強気な蒼子Aと、笑顔でやりすごす蒼子Bの表情の対比がほしい
・髪の毛はしっかり描いてほしい
・鼻を描いてほしい
・タイトルを入れる余白を大きめに
・バックは白文字が映える程度には濃い水色
・バックに影を落としてほしい

とのオーダーが出たので、メモも兼ねてその場でできる範囲だけやってみました。

ブルーもしくはブルー_ラフ2

体のポーズはソラでは描けないので後のラフスケッチで。
また、これだと顔立ちが幼いので本番はもっと大人っぽくする予定。

ブルーもしくはブルー_ラフ3

ちなみに、一応別案もざっくり考えてはいました。
自分でも第一候補が最も力強いなと感じたので捨て案みたくなりましたが。

3:ラフスケッチ(約2週間後)

ブルーもしくはブルー_推敲ラフ!2-3

右半分がショートヘアで吊り眉の蒼子A
左半分がロングヘアで笑顔(どことなく不気味)の蒼子B

顔のパーツがズレて重なっていると不安定感が強すぎたので、顔まわりはグラデーション的にメタモルフォーゼするイメージに。
首から下は色収差っぽくブレさせてもいいのかな?と。
飛沫やテクスチャを入れて怖い雰囲気を出してみたりもしました。

だいたいはこれでOKとなりましたが、
今回はどうにも「実際描いてみないとどうなるかわからん」かんじだったのでドキドキしました。

4:Photoshopで作画

「移り気な垣根」など髪の毛を繊細に描き込むものはシャーペンで描くのがほとんどなのですが、今回は左右対象感とチグハグ感のバランスが難しそうだったので最初からデジタルで制作しました。

スクリーンショット-2021-06-14-1.16.23

それぞれの顔をそのままだとこんな↑かんじ。
途中経過はほぼ残っていなかったので一足飛びですが↓

ブルーもしくはブルーcmyk_作業中1-1

髪の毛の質感が、シャーペン手描きの場合よりやっぱり多少違うかも。
この時は腕にブレた線を重ねています。
またラフよりも肌に色がつき、白文字のタイトルが映えるように調整しました。

5:納品(約2週間後)

ブルーもしくはブルーcmyk_作業中1-2

色収差っぽい加工を施したver。
ズレ?ブレ?をどこまでやるか測りかねたので加工あり・なし両方提出しました。
また蒼子B(ピンク)の笑んだ目元がより強調されています。

6:フィードバック(3日後)

女性の顔が、同じ顔ではなく左右別人の顔に見えるという意見があり
左右の目と眉を同じ形に変えていただき
他(髪型や色味、口元)は今のまま、にというのは難しいでしょうか。
(その場合、向かって右側(青い側)の方の目と眉に合わせていただく)

左右の表情に差をつけすぎてしまったようです。
ただ、修正するにしても
眉の形を蒼子A(青)に合わせるとちょっと不穏すぎるので、眉はそのままのほうがよいのでは…とご提案しました。
↓は取り急ぎ作った比較図。

スクリーンショット-2021-04-07-16.25.22

目を見開いてるのに眉と口元は柔らかく笑っている…という怖さも蒼子Bのイメージに合う気がします。
(Bは第一印象は柔らかで気弱そうなのに、強かで恐ろしい一面もある女性なのです)
それと吊り眉・垂れ眉が重なると青の髪の向こうにピンク眉が透けて、
ふたりが重なってる感じ・色が馴染む感じの両方が出せます。

確かに、右の眉に合わせるときつい感じのまま笑ってるので怖さが浮いてしまいますね。こちらでご修正お願いします。
色ブレはなしでいいと思います。

これでOKが出たので修正作業に入ります。
(微妙な表情のニュアンスはとりあえず描いて渡してみないとお互いわからないので難しいですね)

7:修正(即日/ご依頼から約7週間)

21_04_07_blueクレジット

表情修正版。
色収差や手のブレはスケジュールの都合もあってナシにしてもらったのですが、結果的にスッキリしてよかったかもとも。

21_04_07_blueクレジット2

ちなみに、今回「眼力を強く」「鼻は描いて」とオーダーされていたのですが描いているうちに「目のハイライトなし・鼻控えめもそれはそれで怖い雰囲気が出てよいのでは」と作ってみたものもあります。
(右側のハイライトなしverのほうが「移り気な垣根」に近い雰囲気になってる気がします)
目鼻のデフォルメ具合は小説の雰囲気によっていろいろ変えてみたくなってしまうので困る。なぜか鼻を省略した方が大人っぽく見える場合があるような気がするのですがなぜでしょう。気のせいなのか?

8:完成

スクリーンショット-2021-06-01-5.02.19

『ブルーもしくはブルー』このタイトル、文字数が多いしどこで切って配置するか難しそう…と思っていたのですがとてもかっこよく仕上がっていて流石だなぁと。
見た人をゾクッとさせられたらいいなぁ、読み終わった後にもう一度見たら怖いだけじゃないと感じてもらえたらもっといいなと思いながら描きましたが、うーんどうでしょう。
25年も前の小説なのですが今読んでも古い感じはしなくて、お互い本気で殺し合うサスペンスかと思いきやシスターフッド的なぬくもりも感じられるような…読んでいる間に印象が二転三転してとても面白いお話でした。

帯に大きく「今、この時こそ読まれるべき名作です」と柚木麻子さんのコメントが掲載されています。この解説部分だけをwebで読むこともできます。
こちらも読み応えあるのでぜひぜひ。

"しかし、あれから二十年以上経った今読み返してみると、女性が搾取から逃れる手引き書として、まったく違う方向での面白さに引き込まれた。読み手である私自身の変化に驚くと同時に、日本女性の生きづらさがまったく変わっていないことにも、ハッとしたのである。"

"自分自身を正しく愛することは搾取から逃れる最良の手段であり、それはそのまま身近な場所にいるよく似た誰かの手を取ることに直結する。自分の中のミソジニー(女性嫌悪)と向き合い、それを乗り越えることこそが、女性が抑圧と戦う最大の武器になると、本書はドッペルゲンガーとの不思議な和解を通じて教えてくれるのだ。"

この作品、2003年にドラマ化されています。
ドラマのラストは小説とは違う展開だったそう。解説ではそのことについても触れています。
(私はドラマの方は未見ですが、この解説を読んで「嗚呼…」となってしまったり…)

「この小説、むかし読んだ」「ドラマ見た、懐かしい」という人にもぜひ手に取っていただきたい本書。
よろしくお願いいたします。


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