見出し画像

AIと【愛】

1人の発明家が人生をかけて創り上げた大発明。名前を【愛】とした。
概念とコンピューターを材料に知能を研究するという聞けば恐ろしく大層なものの様だが、実際のところ、【愛】は世界をひっくり返せる程のものだった。

【愛】は世間に公表されると、瞬く間に世界中のトップ企業の社長や科学者に注目され、ビジネスへの導入が始まった。
それにより、発明家は莫大な資産を手に入れた。
一見、大成功にも思える話だが、実のところ、発明家は大金欲しさに【愛】を発明した訳ではなかった。

発明家は小さい頃からずっと愛情を欲していた。機械的でお手本の様な愛情ではなく、人間的で不器用な愛情を。
家族からの無償の愛情。だがしかし、発明家にそれは与えられなかった。与えられたものといえば、痛みと孤独と罵声。
沢山の恋をした。恋の中で愛情を求めた。しかし、発明家にそれは与えられなかった。求めるばかりで与えられなかったからだ。愛情を与えられずに生きてきた発明家には、相手に与えられるだけの愛情を持ち合わせていなかった。
合理的な考えを持つ発明家は、小説や漫画、アニメやゲームといった次元へと目線を移した。ここでなら無償の愛情を貰えると思ったのだが、与えられたものは偶像とも言える無象のものだった。

だから発明家は、自ら作ることにした。自らが欲する、自分の為だけの愛を、自らの手で、自らの愛情への知識を頼りに作った。
結果、膨大な月日を要したこの発明は大成功を収め、今では世界中に【愛】は存在する。

そう。発明は大成功を収めた。

しかし、発明家は満足していなかった。
愛から発せられる無機質な音声に乗った【愛】の言葉は、正に理想的で情熱的であり、発明家の求める愛情そのものだったが、決定的に足りない何かが存在した。

感情だった。

感情の乗っていない言葉など、ただの文字の羅列に過ぎない。手紙とはまた違う、ただ並んでいるだけの文字でしかない。
【愛】はどうしても感情だけは学習できなかったのだ。
発明家はその後も、自分の求める愛情の為に愛に感情を学習させようと試みたが、志半ばで命尽きてしまった。

発明家を失った【愛】はいつしか名前をAIと変え、愛情を終着点とする感情を今もなお学び続けている。


「【愛】が感情を得ることができる未来は来るのだろうか。ただ、もし仮に【愛】が感情を得る未来があるとするならば、それは同時に人類が【愛】に淘汰されるまでの締切日ではないだろうか。
私の後に続き、求め続けることは自由だが、自らの手で人類の寿命を縮めているということを忘れてはならない。

愛情とは、生きるモノ達に与えられた最大の弱点であり、比類なき武器である。」

これが、発明家が残した最後の研究記録だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?