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備忘録。11

 定期的に文章を書かないと何だか鈍ってしまう気がする。それでは本日も。

1.スズキナオ『「それから」の大阪』(集英社新書)

 最近、大阪に足を運ぶことが多い。中之島によく足を運ぶことも一因ではあるが、それより、大阪の色々詰め込まれた要素が好きなのであろう。本書は2020年から2021年にかけての大阪の市民の何気ない日常をシンプルに描いた一冊だ。この頃の大阪というものは、人で賑わう大阪と随分違っていたらしい。本書で紹介されている写真を見ると、本当にここは大阪なのか、という考えが頭をもたげる。やはり、大阪は人あってこそ、という考えが私にも根付いているらしい。東京や京都の写真で人がまったく写っていなくても、私はその写真に違和感を覚えることはないであろう。人が戻りつつある大阪は、万博までにどのように変化するのか、2025年に大阪に行く保証はないが、是非ともこの目で見届けたい。
 そういえば、花博記念公園に行きたい。

2.小山美砂『「黒い雨」訴訟』(集英社新書)

 私はどうやら、日本人として知っておくべき事柄というものを重視する傾向がある。日本人なら、広島への原爆投下日、長崎への原爆投下日、終戦の日のような常識を忘れてはいけないと思うのだ。本書は、原爆投下後に降ったいわゆる「黒い雨」を巡って、補償を求める原告とそれに対する国との裁判の模様を描いたノンフィクションである。
 爆心地付近にいた生存者は被爆者健康手帳を手にしているため、被害者と世間に認知される。しかし、原爆による影響が明らかであるのに、被爆者健康手帳が付与されず、苦しい思いをする人が多くいるという事実に世間が気づくことは少ない。彼らを区別したのは、大雨地域と小雨地域という区分だ。雨の降った時間によって、川や地域を隔てる見えない壁が作られた。被害者の分断を招いた。原爆投下時に、ほんの少し離れていただけで、家族の中で被爆者とそうでない人が分けられた事例も紹介されていた。こういう時、補償とは一体何のために、誰のためにあるのかと思う。本書で描かれた裁判は2021年に終結した。「長い、長すぎる」と私は思った。70年も経っているのだ。「地裁判決までに十六人が他界した。」という一節もあった。私はこの時に原告は何十年も待たされていて高齢者も多い、という至極当たり前な事実に気付かされた。
 広島県の裁判を受けて、長崎県でも被爆者認定に向けた活動が進んでいる。もう被爆者に残された時間は少ない。一刻も早い解決が求められる。

3.菅野朋子『韓国エンタメはなぜ世界で成功したのか』(文春新書)

 ある日、『ブラッシュアップライフ』をリアルタイムで見た後に適当にチャンネルを変えていると、『関ジャム』でK-POP特集が組まれていた。バラエティ番組は録画するとついつい溜めてしまうので、結局、こういう形で偶然目にした番組を見ることが多い。番組ではK-POPの歴史を時代を区切って説明しており、非常に興味深い内容であった。私は正直、外国風のものより日本風のものに関心が強いので、K-POPのアーティストは楽曲以外でどのような違いがあるか分からない上に、「コンセプトはどこも同じでは?」と思っていた(失礼)。番組を見てK-POPに少し興味を持ったので、アーティストの違いという側面でこれからは色々楽曲を聴いてみたい。
 前置きはさておき、『梨泰院クラス』や『イカゲーム』といったドラマ、BTSやBLACKPINK といったアーティストが世界的な人気を誇る韓国のエンタメ。本書では韓国のエンタメが世界の雄となった理由について裏事情を交えながら考察を加えている。本書を読んで気づいたことは、韓国ではSNSが良い意味でも悪い意味でも大きな役割を担うということらしい。アーティストの宣伝になるなら、著作権侵害のある動画や該当広告も気にしないというスタンスが韓国では貫かれている。また、韓国にオーディション番組から生まれたアーティストが多いことから分かるように、アーティストの裏側を見せるという姿勢も一貫している。最近では、日本のアイドルグループでもこれを取り入れた事例が目立つ。国内市場のみに照準を絞っておらず、このような幅広いセールスが展開できることがK-POPの飛躍の理由であろう。一方、SNSでの誹謗中傷はかなり重大な問題になっている。日本でも2020年に大きな問題になったが、韓国ではそれを上回る問題があるという。言わば、SNSは諸刃の剣である(韓国のネット社会については以下の新書に詳しい)。

 かつて、日本のエンタメは韓国で人気であった。現在、韓国のエンタメの勢いに日本のエンタメは押されかけている。ただ、まったく希望がないかというとそうではないらしい。本書では、完成された美を提供するK-POPと比較する形で、「癒やし」を提供する乃木坂46が紹介されている。日本の独自性のどの部分を売り出すことで、世界で評価されるようになるか。その視点を持ちながら、世界に挑戦する日本のエンタメを見たい。

4.門井慶喜『東京の謎(ミステリー)』(文春新書)

 新書はタイトルと目次で読む本を決めているため、著者の名前に最後に着目することが多い。「門井慶喜???」と頭の中がこんがらがってしまった。『家康、江戸を建てる』といった小説も書いているので、当然東京の地理についても詳しいということであろうか。それにしても、この本は面白すぎて困った。東京の各地域を各章でピックアップして、問題提起をしては解き明かすという一連の流れを大学教授の雑談かのように繰り広げている。個人的に一番好きな日本史の時代区分が江戸時代なので、この手の本はあまねく絶賛するのであるが、その中でも特に面白いと思った一冊だ。ただ、東京23区の大体の地理関係が分からないと読みにくい点はあるような気がする。それ以外は特に問題なく楽しめるので、是非読んでほしい。この系統の本なら、以下の本もおすすめだ。

5.湯澤規子『「おふくろの味」幻想』(光文社新書)

 私は「肉じゃが」が答えになるクイズの問題文を作った時、当初、文末を「おふくろの味の代表格は何でしょう?」としていた。結局、出題する際には「家庭料理は何でしょう?」と変更した。この時、「おふくろの味」とは、一体何なのかという疑問が頭の中をぐるぐると回っていた。本書を見つけた時、これは読むしかないと思った。
 大部分を端折って説明すると、「おふくろの味」という言葉には、母親への思い以外にも様々な感情が込められていると著者は指摘している。それは、母親のいる故郷への郷愁という感情も導く。「おふくろの味」という言葉は時代によって形を変えながら、多くの人の心を掴んで離さないのだ。しかし、21世紀になると、「おふくろの味」をタイトルに含んだ書籍の数が減っているという。ジェンダーによる問題もあるが、以前ほど郷愁という観念にスポットが当てられなくなったのではないかと私は考える。社会が便利になることは嬉しいが、それに対応するかのように郷愁のような概念が薄れつつあることは寂しいと思った。

 積読を順調に減らしているからといって、本を無闇に買って増やす行為はやめましょう(結局、鈴木絢音の本を買った。彼女の言葉が好きなので)。

#読書 #新書 #集英社新書 #文春新書 #光文社新書


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