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備忘録。9

 今日は新書大賞が発表された。『映画を早送りで観る人たち』(2位)、『ファスト教養』(10位)、『陰謀論』(13位)を既に読んでいたので、内心でガッツポーズ。積読にある『現代思想入門』(大賞)と『会話を哲学する』(20位)は早く読むことにする。『映画を早送りで観る人たち』については、色々考えていることもあるので、長文noteを書きたい。それにしても、講談社現代新書が1位を獲得したのは結構久しぶりな気がする。『現代思想入門』は昨年、多くの媒体で紹介されていたので納得。ちなみに、2位と7位と8位が出題されているクイズ大会が去年あったらしい(他人事)。

1.巽好幸『「美食地質学」入門』(光文社新書)

 比較的身近な和食を題材に取って、地学の観点から和食の豊かさについて迫った一冊。「入門」と銘打っているだけあって、地学初学者でも理解できる内容。
 私は日常生活に近い題材を取り上げている本をよく読む。当たり前のように知っていることも、意外と知らない事実が詰まっていることがあるからだ。この手の本を読む理由をさらに挙げるとすると、私の世界との繋がり方では、どうしても見つからない面白い事実を見つけることがあるからだ。1人のアンテナの張り方に限界があることは当然のことで、私以外の様々な人の考え方を知ることで、新たに疑問が生まれることがある。そういう感覚を大事にしたいという思いもある。その意味でも、本書は色々な面白い事実を私に教えてくれた。そこそこ衝撃的であった章は、香川県がうどん県になった理由について説明した章。吉野川がかつて香川県に流れていたという事実を単に知らなかった。まだまだうどん力が足りない。その章と同様の内容が、以下の著者のnoteから読むことができるので興味のある方は是非。

2.前田雅之『古典と日本人』(光文社新書)

 高校の時にどれだけ古典が要らないと忌避するクラスメイトを見たか。これは、高校生あるあるの1つであろう。本書では、古典の定義、古典の受容、近代日本での古典の変容などを考察して、日本で古典はどのように変化したかを記述している。
 本書では古典の注釈書、校訂が生まれた時期を「古典的公共圏」の成立として、明治に入るとそれが喪失した、と説明することで、日本の古典の断絶が生まれたと主張している。かの夏目漱石も日本の近代化については、「皮相上滑りの開化」として厳しい目を向けている。表面的な近代化は日本人の内面を無視した形になったということであろう。そのような文脈で古典が捉えられるからこそ、古典が受験生に忌避されることも無理はない、と私は考える。ただ、古典を学習科目から外すべきかと言われると、それは違うと私は考える。「やまと歌は人の心を種としてよろづの言の葉とぞなれりける」や「いづれの御時にか、女御、更衣あまたさぶらひたまひける中に…」という文章は何百年の人の目を通って残っている。現代社会は、とにかく役に立つ、立たないで物事を見てしまいがちだが、その観点を超越した場所に古典はあるのではないか。日本人がふと物事を考えたい時、何気なくいる存在が古典。もちろん、それを参照するかしないかは個人の自由である。ただ、最初から要らないと決めつけて忌避する存在ではないと私は思うのだ。これからも私は古典を読み続ける。

3.藤田早苗『武器としての国際人権』(集英社新書)

 自分に関することには悪い点が何もないように見える。そういう時は、自分以外を見ると悪い点が見えてくる。本書では、世界で人権問題に携わる著者が、世界と日本の人権問題を比較しながら、それぞれの問題点を指摘している。そして、日本の抱える人権問題については、海外のものよりも多く説明を割いている。
 日本以外の国では当たり前なことが、日本では当たり前ではないという事例が多く紹介されている。メディアの権利、女性の権利、移民の権利の日本での遅れが詳細に記されており、ここまで海外と差があるとは、正直思っていなかった。私の認識の浅さを恥じる。最近、性犯罪の規定にあった「拒絶困難」の事例が削除される試案が発表されたが、著者に言わせれば、これも世界から遅れた対応であろう。これに関連して、日本の「性的同意年齢は13歳」という規定がいつ定められたかを調べた所、1907(明治40)年であった(100年も変更されていない)。また、メディアの章では特定秘密保護法に関する問題点、移民の章では日本の入管の対応の杜撰さなどが紹介されていた。日本国内で大々的に言われていないため、この問題が大きく表面化することは少ない。しかし、著者のように世界で活躍する人の間では、日本の人権問題はかなり問題視されているという。人権が侵害される側ではないと驕らずに、日本の人権問題について真剣に考える時がもうそこまで近づいてきていると感じる。

4.海野聡『奈良で学ぶ 寺院建築入門』(集英社新書)

  私は新書を紹介する時に、情報が網羅されている「◯◯
10選」や「◯◯入門」といった趣旨の本は紹介しないことが多いが、本書はどうしても推薦したかったので、ここに挙げることにした。私は子供の時に京都を訪れた時の体験が未だに忘れられず、京都、そして、京都に多くある神社仏閣のことが好きになった。そのため、必然的に奈良も好きになり、奈良の神社仏閣も好きになった。奈良は京都のように、一ヶ所に神社仏閣が集中していないため、ほぼ全部を訪れることは未だ叶っていないが、それでも主要な神社仏閣は大方訪れたことがある。ここで紹介されている東大寺は修学旅行の時に、薬師寺と唐招提寺は高校生の時に、興福寺は一昨年に訪れた。特に薬師寺は最初に訪れた時に衝撃を受けた。雲一つない天気の下に、真っ赤っ赤に屹立する東塔の景色を忘れることはないだろう。
 ただ、本書を読んでから、上に挙げた寺院を再び訪れたくなった。本書では、寺院建築の基本的な要素から、各寺院に凝らされた工夫や技法が徹底的に解説されている。本書の通りに鑑賞していると、一ヶ所で2時間や3時間は余裕で過ぎてしまいそうな気がする。単純に建築の凄さに圧倒される旅もなかなか乙ではあるが、しっかりと建築に目を向けた旅もしてみたい。
 奈良に久しぶりに行きたい。次は西大寺、橿原神宮、大神神社、安倍文殊院に訪れてみたい(これは個人のメモ用)。

5.波多野澄雄『日本の歴史問題』(中公新書)

  日本と中国、韓国との関係はどういう経緯で複雑になったのか。考えたことはあるが、それに対して納得のいく説明がある文章をそれほど読んだことはなかった。本書は、そのような日本の歴史認識について、第二次世界大戦から現在まで順番に丁寧に取り扱っている。
 私が本書を読んで考えたことは、政権と歴史認識が密接な関係を持つため、どの政権も各国と一致した解釈に至ることが難しいのではないかということだ。特に靖国神社を巡る問題は日本と海外での認識も大きく異なるため、利害関係者が納得するような結論を導くことが不可能に思える。歴史の捉え方は難しく、各国で様々な解釈があるという知見を得た一冊であった。

 エッセイで書きたい題材を思いついたので、今度はそれをnoteに投稿するかもしれない。

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