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Balloon

「膨らんだり 萎んだり…それでも変わらなかったんじゃないのか?」


長年 連れをやっているコイツは 見て感じてきた。


俺の熱しやすく冷めやすい様を。


会えば 高火力で炙られたように肥大して。


離れれば 急速冷凍庫に閉じ込められたように 縮小する。


まだ 破けてはいないから いいようなモノを。


この心は 許容量の存在しない風船みたいだ。


「3日も連絡来ないから さすがに愛想尽きちゃったんだよ!」


学生の頃なんて もっと酷かった。


「なんで連絡したのに出ないし 返信も無いんだよ!?」


待つということすらしていなかった 出来なかったのだから。


「いつも聞くけどさ…あっちの話 ちゃんと聞いたのか?」


気怠そうにソファーに足を伸ばしたまま アクビばっかりしている。


「聞こうにも 返信無いんだから 聞けねぇよ。」


昨日開けて湿気ったポテチに手を伸ばした。


「お前のことだ…前々からサイン出してたのに 全部 見逃してんだろうな…まぁ 3日待ったのは成長だな笑」


(またダメなんかなぁ…)


「考えてても返信が来るわけでもないし 飯でも行こうぜ…とりあえずよ。」


靴下を履くのすらダルい。


引き摺られるように 通い慣れた道を歩く。




『今日は楽しかった!

 また直ぐに会いたいから 連絡するね。』


既読を付けてしまったけど 返信する手が動かない。


悪い人じゃないし 嫌いなわけでもない。


ただ 熱量と距離感が ズレている。


何度か会っている中で それとなく雰囲気を出してるつもりだけど なかなか伝わらないのが もどかしいを通り越して 苛立ちに変わってしまいそう。


そうなりたくないから きっと この指先は止まったまま 思考停止ならぬ神経停止を脳が命じている。


結局 返さないまま 3日が経ってしまっていた。


言い訳したいとかじゃない。


気が向かない。


無理をして 会話を続けても 伝わらないなら しなくてもいいという選択肢が 心を埋め尽くしていた。


(あんなに真っ直ぐ 好きだって言ってくれたんだよね…)


彼を切り離しきれない。


忘れてしまいたいわけじゃないから。




「じゃあ お前に足りないトコロ教えてやろうか?笑」


コイツはいつも 一歩先な事を嫌味たらしく親切に教えてくれやがる。


ただ その言葉や理由に非の打ち所がないから また質が悪い。


「な…なんだよ?」


強がった態度を取るけど 本心から聞きたいことも知ってるから コイツは笑ったままだ。


「お前さ…全部 一方通行なんだよ…場所とか時間は聞いても 彼女の本音 1つも引き出せてないんだよ…そしたらどうなる?」


必死で これまで彼女と過ごした時間を回想する。


行きたいと伝えられた場所には 連れて行った。


デートに遅刻したことも無い。


なんなら 少し前に着いてるくらいだ。


でも ふと怖くなった。


デートしてる時の中身が うろ覚えなんだ。


会話や表情。


2人でいる時間に欠けたら成り立たなくなってしまうモノなのに。


俺ばっかりが 自己満足してるだけ。


彼女の中に幸せな気持ちがあるのかを考え忘れていた。


「俺は…いつも…」


同級生の親御さんが経営している中華屋さんで回鍋肉をつつきながら コイツの目を見る。


「お前でも どうすればいいか 分かるんじゃねぇの?」


コイツが言い終わる前に 細胞が指先を動かした。




悩みながら 寝てしまった。


『新着メッセージがあります。』


ロックを解除するやいなや通知される。


彼からだった。


(あぁ…返信ないから 別れようって言われるな…これは。)


呆れ半分で開いたメッセージは 途中で読みにくくなっていった。


大量に使ってしまったティッシュの山をゴミ箱に捨てて ついでに 数秒前まで疑っていた過去の自分も捨てた。


『ちゃんと会って話したい!』


それだけ送って 化粧台に向かった。




「出来たか~?笑」


画面をチェックして 頷いたコイツが確信をくれる。


「どうよ?」


「上出来。」







カノちゃんへ


俺 一生懸命 馬鹿な頭で考えてみた。


いつも こっちの気持ちばっかりで ちゃんとカノちゃんの気持ちを聞いたことが 思い出せなくてさ。


逆だったら 何にも伝えられないし 伝わらないなって 本当に思ってさ。


だから 教えてほしいんだ。


これから どうなるかは 分からないけど…カノちゃんの気持ちも含めて 一緒に考えてみたくて。


今更かな?


遅いかな?


あぁ…こういうのが ウザいんだよな。


バカ 俺。




愛にはあらゆるモノが含有されている。


優しさにばかり焦点が向かうけど きっと そうじゃない。


叱ったり。


怒ったり。


ネガティブな印象を受けることさえも 裏返された優しさには変わりない。


そして 代わりが無いんだ。


誰かがくれる愛も 自分が抱く愛にも 代わりなんてありはしない。


カタチが違うだけ。


ちょっぴり素直になれないだけ。


風船は 空気を入れ過ぎると弾けてしまう。


多すぎても 少なすぎても。


天秤が釣り合うのは 現実世界では 有り得ないし 難しいことかもしれない。


どっちかの重さが足りないなら その重さをもう片方が補えるように。


ただ その重量差があまりにも上下すると どちらも疲労してしまう。


足したり 引いたり 大忙し。


昨日は ご飯作ってくれたから 今日は 少しデートしながら ご飯でも食べに行こう。


お互いの真ん中を意識するような関係。


2人が待ち合わせした駅前では 着ぐるみ姿のキャラクターが 子供たちに 風船を配っている。


裏表などない純粋な喜びが満たしながら。


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