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がんになったら前向きに生きなければならないのかー山本文緒著「プラナリア」

#推薦図書 #がんサバイバー #山本文緒 #乳がん

山本文緒さん、嫌いな作家です。山本文緒さん、プライベートは恵まれてるのに、ありふれた不幸に酔ってるところが嫌いです。最近作品を読まなくなったから、「本当の嫌いはさようなら」になったんですけどね。

病気になったら、前向きになって病気を治さなきゃならないんですかね?
闘病ってやつですか?
病気を治療しながら生きていく人たちを否定するのではありません。ただ、毎日治療をして療養をして静かに暮らす方も、投げやりに無気力に病気と向き合う方もいらっしゃいます。

メディアで絶対聞くのは「がん(これ以外の病気もありますが)にかかり闘病生活」と、必ず病気と闘うことを強調した言い回しです。
ワタクシ、「闘病」という表現が大嫌いです。

がんなど病気を持った人が主人公の物語は、ほとんどが病気と健気に向き合い前向きに生きていくのが王道です。ですが人を嫌な気分にさせる作家・山本文緒さんが、そんな明るく人となりのいい主人公の物語を書くわけがありません。

乳がんになり手術をして治療を続け、やる気のない無気力な日々を送る春香という女の子の話です。主人公・春香は、どうしようもなくだらしないというか、やる気のない女の子です。乳がんを見つけたのは自分だけど、乳首から血が出てたのをほっといてようやく病院に行って治療が始まりました。治療がきついのにセカンドオピニオンに行かないで、治療や体調管理に対してどこか投げやりな態度です。

乳がんが見つかった時は二股をかけていて、片方はさっさと逃げて残った片方は付き合ってはいるけど、惰性で付き合っている感じ。手術の時に必死で春香を支えたけど、それも本当に心配してか、他人を心配する自分に酔いしれているのかわからない。春香がやる気のない、無気力な生活を送るのも無理がありません。

がんと診断を受けた時と、症状が落ち着いて治療を続ける現在とでは周りの態度が違うのです。手術の前には周りは優しく同情してくれましたが、症状が落ち着いても何もせず働きもせずぶらつく春香を周りは持て余します。
春香の周りの人が期待するのは、「病気で胸はなくなったけど、治療を続けて明るく生活する女の子」です。
「無理のない程度に働いて、前向きに生きていく女の子」です。

前向きなのはいいことですが、周りの態度の落差に耐えられるほど春香は大人ではありません。読み進めていくうちに「どこまで甘えてんだ!」と怒りたくなりますが、周りの励ましや関わりがうっとうしいと感じるのはなぜでしょうか。

春香は手術した後も治療のために通院をしますが、「あの日々はなんだったんだろう」と自分で自分を持てあまします。大騒動の後、春香は日常に戻れず、ついつい「あたし乳がんだから」と口にして周りをしらけさせます。そんな春香を入院中に知り合った人・恋人・両親は、働くように日常に戻れるように接しますが、春香の気持ちはどこに着陸していいのかわかりません。

病気を持ち治療する日々が続く人を、簡単に自分の善意のはけ口のために接してはいけないのです。気持ちが落ち着くまで付き合うわけでもなく、自分が感動したいためだけに軽々しく接してはいけないのです。当事者は終わりのない日常を淡々と生きていかなければならないのですから。

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