見出し画像

【書評】ウー、うまい!(高峰 秀子 著 河出文庫)

11代伝蔵 書評100本勝負 43本目
 長崎書店では興奮のあまり、予算オーバーにも関わらずカゴに本を入れてしまい、リュックがパンパンでした。ですから兄弟店である長崎次郎書店へ足を運ぶのはためらわれましたが(多分また買ってしまうから)折角熊本へ来たんだから(折角主義)と思い、市内電車で移動しました。
 長崎次郎書店の住所は「熊本市中央区」となっていますから、中心部に位置しているんでしょうけれど、長崎書店ほどにはおそらく立地がいいわけではなく、電停そばにあるのでアクセスは悪くけれど、歩いていて偶然見つけて書棚を覗いてみるという可能性は高くないと思われます。だからこそ、長崎書店以上に創意工夫に溢れた書店でした。店の規模は半分位ですが、2階は喫茶室になっていて買った本をコーヒーを飲みながら開くという贅沢?な時間を過ごすことができます。
 売り場面積が半分ということは並んでいる本も半分以下ということになりますが、限られた書棚ですが、学習参考書もあり、「売れ筋の本をきちんと売り切る」という姿勢が現れていると思いました。また書棚そのものも工夫されていて他の書店ではあまり見かけない書棚でなるべく表紙を見れるよう平置きにしています。下世話ですが、「この書棚は特別注文だろうから高いだろうなあ」と思ったりしました。
 困ったことに?そのコストのかかかった書棚は長崎書店以上に本から呼びかけられる書棚で、嬉しい?悲鳴を上げながら広いとは言えない店内を徘徊しました。そして最初に手に取ったのが本書でした。
 著者である高峰秀子は随分前に鬼籍に入った女優という認識はありましたが、同年代?の女優 高峰三枝子と混同しているくらいですから、出演作品などは思い浮かびません。それでも手に取ったのは軽いグルメ随筆と思ったので、帰りの新幹線で暇つぶし(失礼!)に適当だろうと思ったからです。結論から書けば本書を開いたのは自宅に帰ってからでしたが、決して軽い内容ではなく、その文体は魅力的で高峰秀子の文筆家としての実力に賛嘆させられました。
 高峰秀子は五歳でデビューし、戦前戦中戦後の昭和を生き抜いた女優だと知りました。特に戦中、戦争直後は文字通り食うにも困ったようで、それが彼女を食いしん坊にし、そして文筆家にしたのでしょう。その内容は時に大正生まれの小うるさい婆さんになったり、外国での時に華麗なグルメ体験が語られます。と同時に夫のためにちょっとした工夫をして日々の食事を作る様子が描写されています。夫婦共に呑んべえのようで、簡単なおつまみレシピも披露しています。「挽き肉のレタス包み」「中国風冷奴」は特に試してみたいおつまみでした。
 本書の白眉は最後の「松山善三対談 旅は道づれ、二人は食いしん坊」です。夫婦仲を強調するのは嫌味になることがありますが、ジョークと嫌味?を交えた対談は夫婦の関係性がよく分かり、心が温かくなるだけでなく、夫婦関係について改めて考えさせられました。

 本書を編集したのは夫婦の養女となった作家斎藤明美です。本書の魅力は高峰秀子の文筆力と彼女の編集力によるところ大きいと感じたことを付言しておきます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?