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【書評】眼の誕生(アンドリュー・パーカー著 草思社)

11代目伝蔵 書評100本勝負36本目

イケシャーシャー
[副]《「いけ」は接頭語》憎らしいほど平然としているさま。「あんなにしかられたのに―としている」(デジタル大辞泉)

 だいぶ間が開いたよなぁとは思っていましたが、何と3ヶ月ぶりの投稿で、もうびっくりなんですけどぉ。100本の書評が密かな目標(去年の)だったので要するに目標不達成ですが年も明けたことですし、上記の言葉と共に再開ですわ。

 昨年の10月別件で福井に行くことが2回ありました。敦賀は京都から特急で1時間余のところで、それならと気になっていた本屋にも立ち寄ることにしました。敦賀駅前にオープンした「ちえなみき」です。丸善雄松堂と編集工学研究所の共同運営ですからかなり個性的な本屋なのでしょう、興味津々で立ち寄りました。
 結論から書けば、なかなか魅力的な空間でした。カフェや電源付きの机が用意されているのは今どきの本屋としてはそれほど珍しくないんでしょうけど、編集工学研究所プロデュースですから棚の並びは個性的です。ありふれたベストセラーを買おうとすると思いの外苦戦するかもしれません(もしかしたら辿り着けないかもしれないし、そもそも置いてない?)が「その空間からインスピレーションを受けたい」という向きにはエキサイティングな本屋でしょう。

ところで福井ってどんなイメージをお持ちでしょうか?僕が思い浮かぶのは、永平寺と原発。そして北前船と昆布(奥井海生堂という江戸から続く海産物屋?は敦賀が本店です)。でも忘れてならないのは鯖江のメガネ。日本で生産されるメガネフレームの95%は鯖江で製造されるそうです。当然?「ちえなみき」にも「鯖江の眼鏡」(加藤麻司 著 福井眼鏡協会)が鎮座しており、これまた当然に買いました(こちらはまだ読んでいない…苦笑)。そしてその隣に鎮座していたのが本書「眼の誕生」です。奥付を確認すると2006年初版で2019年11刷とありますから一定の評価を受けたロングセラーであると分かりますが、それでも「ちえなみき」でなければ手に取らなかった(手に取れなかった?)本だったと思っています。

 いつものことながら前置きが長くなってしまいました。そろそろ肝心の書評に入りましょう。
 本書はかなりセンセーショナルな内容ですがロングセラーになっているところを見るとその主張は一定の評価を受けているようです。「ようです」と書くのは基本的にかなり専門性の高い僕のような素人にはその可否を判断できないからです。しかしながら最後まで読み通すことができたのは専門性の高い内容を著者がまるで冒険譚の主人公になったかのようにワクワクドキドキしながら書き進めているからです。つまり本書は知的で上質な物語として読むことができます。途中専門性が高くてよく理解できなくてもです(よくわからないところは読み飛ばしてもよいと個人的には思います)。
 著者アンドリュー・パーカーは動物学者で研究者ですから自説の証明には遠回りをして反証を一つずつ潰していきます。時に専門性が高くなり、前述したように僕とっては理解の難しい記述もありました。説得力のある比較かは自信がありませんが、あの「海底二万里」もしばしば海洋生物の羅列が続きます。サカナくんならいざ知らず、多くの読者にとってあれが面白いとは思えないんですけど、著者ジュールヴェルヌはしばしば飽くことなく記述を続けます。すると不思議なもので、最初はさして面白くないと思ったその羅列に眼がついていくようになりました。本書の記述が難しくなったらそれは「海底二万里のあのパターンね」と割り切りましょう(違うかも笑)。
 本書の結論は要約すると至って単純です。「カンブリア紀の爆発」は眼の誕生が大きな役割を果たしたというのです。
 一般に「カンブリア紀の爆発」という進化の時代がありました。それは5億4千300万年から始まり、わずか500万年余りで(500万年をわずかというのもどうかと思いますけど。でも46億といわれる地球の歴史に比べると瞬きの時間らしいです)全ての動物門が複雑な外部形態を持つことになった進化上の大事変を指します。なぜこの500万年の間にしかも全ての動物門が大きな進化したのかこれまでにも多くの学者がさまざまな学説を発表してきましたが、常に反証にあい、定説はないようです。しかし本書の著者アンドリュー・パーカーは様々な手順を踏みながらそして時に右往左往というか大きく廻り道をしながら自説を証明していきます。正直、難しくて挫けそうになりましたが、その度に著者に励まされるかのような過去の研究者たちのエピソードが散りばめられ、「なんだ、やっぱり面白いじゃねえーか」と思い直してページを捲ることになりました。それにしても結論は単純で、単行本で600ページ本書の終わりになって前述の結論に辿り着きますからちょっと拍子抜けしました。「それならもうちょっと早く結論を言ってくれる⁉︎」というところですが、本書は科学書でもあり、冒険譚でもありますから、そういうわけにはいきませんね、やっぱり。

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