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【書評】女二人のニューギニア(有吉佐和子 著 河出文庫)

 11代目伝蔵 書評100本勝負 48本目
書店で本書が目に飛び込んできた時、手を伸ばしのたは特別理由があったわけではありません。そもそも有吉佐和子の小説を一冊も読んだことがなかったんですから。ただ随分前に急逝して忘れられた作家(少なくとも僕にとっては)であるのに再び再文庫化していることに興味をもったからです。
 彼女の小説を一冊も読んだことがないのに強い印象を持っているのは出演したテレビ番組の影響です。ご存知の方も少なくないと思いますが平日昼間に放送されていた番組ワンコーナーに出演し、時間をオーバーして居座り他のコーナーを全て飛ばしてしまうという武勇伝?を持つ女性です。僕自身は見ていないのですが、SNSが今ほど発達していない当時にあっても随分評判になりました。ですから有吉佐和子については「押しの強い、傍若無人のおばさん」というイメージがあり、この本もそういう?内容だろうと予想しました。題名に「女二人」とありますから一人は有吉佐和子で、もう一人もまた彼女並みに傍若無人の女性だろうとも思いました。読み始めると事前の予想はそれほど外れていませんでしたが、もう一人の女性の方が遥かに傍若無人でした。その女性は文化人類学者の畑中幸子で有吉佐和子も真っ青になるくらい肝が据わっていて傍若無人の女性でした。彼女には「南太平洋の環礁にて」(岩波新書)という著作もあります。二人の関係は今ひとつよくわかりませんでしたが、畑中が有吉をニューギニアに誘いこの旅が実現しました。1968年のことです。著者は本書を次のように書き出します

 私がニューギニアへ行くと言いだしたとき、そんな無謀なことはよせ、お前には無理だと言って止めてくれる人が一人もいなかったのは何故だっただろう。

 この書き出しから著者がこの旅に二つ返事で行ったことに後悔していることが分かります。実際旅は苦難の連続でした。本書の中で、この地にやってきたことを後悔している記述を何度も繰り返します。だからこそ畑中幸子のたくましさというか傍若無人ぶり?が目立ます。文化人類学者としてこの地に来ているのですから当たり前と言えば当たり前なんでしょうけど、時に生命の危険にされされながら現地人と丁々発止の活躍ぶり。その様子が本書の魅力の一つでしょう。一方で、有吉の方は畑中の調査同行に尻込みし、時には断ったりします。時間を持て余した著者は裁縫に精を出し、パンツなどを縫い上げ、畑中や現地人たちにプレゼントします。畑中や現地人たちは大喜びですが現地人たちの行動の変化に著者や畑中を悩ませることになります。それはパンツを履いた現地人が段々と不遜になり、畑中の命令に従わなくなったのです。元々畑中は現地人を札束で引っ叩くような欧米の文化人類学者のやり方に批判的でした。しかしながら畑中自身も札束(お金)を使わざるを得ず、ニューギニアは男尊女卑の文化ですから、現地人に対して高圧的にならざるを得ません。その様相はまた本書の読みどころの一つで文明論に通じると思いました。そして六十年以上前は場所によっては未開の地であったニューギニアがどのように変化していったかに興味を持ちました。畑中には「ニューギニアから石斧が消えていく日 人類学者の回想」という著作があり、題名からニューギニアの変遷が分かりそうなので早速注文しました。次回この本の書評ができればと思っています。

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